ふれあいvol.74
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フトできるかという点ばかりが注目されているが、4パーミル・イニシアチブでは、炭素自体を地中に閉じ込めて大気中に放出させないというアプローチをしている。そして、山梨県は日本国内ではその試みの先頭に立っている。 なぜ山梨県は4パーミル・イニシアチブに力を入れているのか。 大きな要因の一つは、山梨県で果樹栽培が盛んなことだ。畑作に比べ、耕運(作物を植え付ける際に土を掘り返すこと)をしない果樹栽培は土に炭素を蓄えやすい。山梨県の生産シェアは、ブドウが24%、モモが35%もある。だから4パーミル・イニシアチブを導入すると、CO2削減効果が大きいのだ。県が試行錯誤した結果、一番効果があるのが炭化させることだった。炭をつくるのには「無煙炭化器」という特殊な鍋を使う。底に穴が空いている無煙炭化器に1〜2カ月乾燥させた剪定枝を入れて炭化し、畑に散布する。 渋谷さんは循環型農業を追求した結果4パーミル・イニシアチブを取り入れたという。実際にやってみると思わぬ副産物があった。 「味がさらに良くなりました。ワインは複雑な味を出すことが大事です。炭を使ったことで土壌環境が良くなり味の複雑さが増したのです」 循環型の良いところは「この土地だからこその味が出せるところ」だと語る。 「外部由来の肥料を使うと確かに収量や生育は良く、収量はおそらく1.5倍くらいになるでしょう。でも画一的な味になってしまう。また農業は環境負荷がすごく高いと感じる。それを少しでも減らしたいという思いがありました」 枝を「炭」にすることが、味と環境の両面に効果をもたらすというわけだ。 山梨県は令和3年5月、4パーミル・せん ていイニシアチブを導入した農家の作物や加工品の認証制度をつくった。認証を受ける人が徐々に増えている。 消費者には、認証ロゴマークが貼られている商品を買うことで「環境負荷を低減させている」という取り組みに参加してもらうことを狙っている。エシカル消費(社会的課題の解決を考慮した消費者が、課題解決に取り組む事業者を応援する消費活動を行うこと)を促すことで、農家は恩恵を受けるし、山梨県産の農作物のブランド化、高付加価値化にもつながる。 県販売・輸出支援課の塩野正和主任はこう話す。 「山梨県産の果実は品質がいい、ということは多くの皆さんがご存知だと思います。さらに『環境にもいい』という新たな価値を感じてもらいたい。まだ始まったばかりですが、大都市のエシカル消費層には『山梨は4パーミル・イニシアチブに取り組んで果実をつくっている』ということを認知して、選んでもらいたい。そして、今後は日本全国の消費者に選ばれる果実になるよう、積極的にPRしていきたいと思っています」 その試みが、冒頭に紹介した東京・銀座でのモモ販売につながっている。 渋谷さんも消費者の意識の変化を感じている。 「ワインを飲む方は勉強熱心な方も多い。ワインのラベルに貼られている認証ロゴマークを見て、『どういう意味なの?』と聞かれ、そこから環境問題の話になることもあります。ある意味では、ワインが環境問題を考える入り口にもなっています」 これからの社会はSDGs(持続可能な成長目標)といった言葉に代表されるように、持続可能性を考慮することが欠かせない。それは生産者だけでなく、私たち消費者にも地球環境を考えた消費行動が求められているということだ。4パーミル・イニシアチブの取り組みで生産された農産物などを味わいながら地球環境のことを考えてみるのもいいかもしれない。山梨は「4パーミル効果」が大きい「4パーミル」が生んだ副産物は… 21渋谷さんがつくったワイン。認証ロゴマークが貼られている渋谷さんのワイナリーのブドウ畑に積まれている炭

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