ふれあいvol79
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が県外へ流出しがちだった。 「県内の企業や業界団体からも『なんとかならないか』という声が寄せられていました。そこで、22年度のチャレンジとして、当校のカリキュラムを再編し、一級建築士の認定校になるための手続きを行ったんです。建築士法改正によって、20年からは一級建築士の受験資格に必要だった『実務経験』も不問となり、条件が緩和されていたことも追い風になりました」 手続きからおよそ半年後の、22年12月、認定が下り、甲府工業高等学校の専攻科建築科は山梨県初の一級建築士の認定校となった。 「これから建築士を目指す人より、すでに建築業に携わっている方からの反響が大きいですね。『2年制で一級建築士が受験できるなんてすごいね』『公立で学べるとは、お得だね』など、いろんな声をいただいています。建築を学ぼうとした際、一般的に、専門学校では2年間でおよそ250万円を要します。でも、当校の場合、月額9900円、諸経費を入れてもかかる費用は2年間で40万円です。Iターンや、セカンドキャリアを考えている都心部の方にも有効に活用していただければ」 23年度、甲府工業高等学校の専攻科建築科夜間制には13人の生徒が入学した。 冒頭の大河内さんをはじめ、高校を卒業後、そのまま進学した19歳の生徒や、50代の元看護師など、年齢、経歴もさまざまだ。 甲府工業高等学校に通いながら、有限会社匠建築工房で働く中村信太郎さんは、現在32歳。匠建築工房で勤めるまでは、体育の先生だった経歴を持つ。 「匠建築工房は親の会社なんです。実家が建築関連だったというのもあり、いつかは家に関する仕事に関わりたいという思いがありました」 匠建築工房は、主に建築などの工事現場で、現場全体の施工管理を担っている。中村さん自身、実家を建てた際の現場を父が指揮する姿も目にしてきた。 「じっとしているだけでは仕事は入りません。現場があって、初めて収入になります。ですから、単に業務をこなすだけでなく、お客様の期待以上のものを提供することが大切です。ぱっと見て美しい建築物を造り上げるためには、細部の仕上げにも細心の注意を払わなければいけません。一通り、いろんなことをわかっておく必要がありますし、とても難しいのですが、毎回、学校での勉強が役に立っていると感じています」 現在は、現場でのサポート業務が主だという中村さんに、将来の夢を尋ねた。 「ひょっとしたら、教師時代の教え子たちが、いつか、山梨県内に家を建てるかもしれません。そのとき、再会したり、お手伝いができたりしたら、うれしいです」 山梨県初となる一級建築士の認定校は、多くの人に夢を与えた。 これまで、山梨県は隣県の長野県や静岡県と比較したとき、事務所の数や、技術者の人数も劣っていた。甲府工業高校の菅沼さんは「山梨県から一級建築士を輩出することで、県内の建築文化を底上げできたら」と期待する。 「山梨県は県土のおよそ78%が森林で、そのおよそ半分は県有林です。森林大国なんですよ。一方で、県産材を活用した住宅は、あまり造られていません。今後は、地域で木を育て、その木を使い、住めば住むほど価値が上がっていくような、住宅を『街と共に一緒に育てる』感覚を持つ建築士が生まれたら、と思っています。建築は、そこに住む人、そして、街にとっての財産になるんですよ」 甲府工業高等学校から、郷土を支えるアーキテクトが誕生するのを、関係者は待ち望んでいる。「森林大国やまなし」で人材を育む意義21「かつての教え子の家を建てる」のが中村信太郎さんの夢だ左から甲府工業高校 定時制教頭の深山光也さん、同校建築科主任の菅沼雄介さん、県教育庁高校教育課の柿﨑敬さんやまなし in depthフルバージョンはこちらから

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