ふれあいvol80
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 富士の介はキングサーモンとニジマスを掛け合わせた山梨県のオリジナルサーモン。きめ細かい身質やほどよくのった上品な脂、豊かなうまみが特徴で食べやすさが魅力だ。 富士の介は平成19年に県水産技術センター忍野支所で実用化に向けた試験を開始し、平成28年に水産庁から養殖魚としての利用が承認された。令和元年の出荷を皮切りに、今では国内外に流通している。県水産技術センターが生産した卵と、加熱加工された安全なエサで飼育し、出荷時の肉色や鮮度保持の方法などの基準を満たしたものだけが富士の介として出荷されている。山梨は「天然の水がめ」と呼ばれる名水の地で、豊かで清らかな水を活用し、各地で富士の介、ニジマスなどさまざまな魚が養殖されている。富士の介の生産者によると、デリケートな魚であることから、やさしく丁寧に育てる必要があるという。飼料選びに気を遣い、薬剤を極力使わない養殖にこだわる者もいる。天候や気温に応じて水質をコントロールし、生育状況によって飼料の量を調整するなど、おいしい富士の介を消費者に届けようと生産者は日々奮闘する。 令和5年10月には、県産食材を使った美食体験ツアーが開かれた。ホテル鐘山苑(富士吉田市)で富士の介を使った特別メニューが提供された。 調理を手がけたホテル鐘山苑の調理部統括部長・宮下裕一さんは富士の介について「身がしっかりしていて大きい。臭みやクセもなく、食べてみても口にうまみが広がりました。調理のバリエーションに可能性を感じたので、いろんな味を楽しんでもらおうと思いました」と語る。 その言葉どおり、焼き物といった和食テイストに加え、コンフィやマリネ、オリーブオイルで食べるカルパッチョ風の柿昆布〆など洋風テイストも用意した。味がクリアでうまみが豊富な、富士の介の食材としての幅を最大限に生かしている。 実食体験には、県の美食顧問・齋藤孝司さんも参加し「富士の介は味がとてもクリアで食べごたえがあり、いろんな食べ方を楽しめた。今日は実際に来てよかったです。もっと多くの人に知ってもらいたいですね」と満足げに話した。 美食顧問とは、県が農畜水産物のブランド強化を図るために設置したもの。その第1号として、レストラン格付け本「ミシュランガイド東京」で9年連続三つ星を獲得した「鮨さいとう(東京都港区)」の店主・齋藤さんが委嘱されている。おいしく届けたい オリジナルサーモンのブランド化を進める行政、丹精込めて飼育する生産者、そのバトンを最後に受け取るのは料理人だ。 宮下さんもその使命を感じている。 「皆さまが、それぞれできることを尽力されて、出来上がった食材です。素材を吟味し、そのおいしさを引き出すように考えるのはもちろん、お客さまに食べていただく順番やどんな味つけでうまみを伝えるかにも気を配りました」と語る。 和洋を折衷させたバラエティに富んだメニューを創作し、参加者を最後まで楽しませた。 地元の食材の良さはよく知っている。だからこそ「山梨の食材や料理ってこんなにおいしいんだ、来てよかったなぁ、また来たいなぁ」と思ってもらいたいと願いながら厨房に立つ。 山梨県は県産の豊かな食材を使ったガストロノミー(美食)による高付加価値化や地域活性化を目指している。県内の飲食店や宿泊施設が県産食材を使用して創作した特別メニューと県産酒とを一緒に堪能できる「やまなし美酒・美食マンス」といった取り組みを続々と実施。東京から近く、リニア新幹線が開通するとさらにアクセスが向上することもあり、ブランド確立には熱が入る。 行政や生産者、料理人のこだわりと努力が同じ方向を向き、山梨の価値を高めている。丹精込めて富士の介を生産最後の仕上げは料理人地元の食材だからこそ、県産食材を使ったメニューを美食顧問が絶賛17養殖場を視察する齋藤さん特別メニューを紹介する宮下さん

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