山梨てくてくvol.11
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一方、墨をすりながら自分の内面と向き合う精神的なオブジェでもあります。そんな硯を作るためには、いかに精神を込め深く追求していくかが求められるのです」 「雨畑硯の原石が採れる辺りは山深く、そこにたたずんでいるだけで、森の空気や大地の息吹といったものが自分の中に入ってくるように感じます。また、それは石の中にも込められているわけで、自分のイメージと、石が持つ歴史や存在感などが関係し合って一つの形になっていくのです。雨畑硯の魅力には、そういった地域性と密接な関係があると思います。この雨畑硯の素晴らしさを知ってもらい、硯が山梨の伝統工芸として存在していることを世に示していくために、私は、日本伝統工芸展にも作品を出し続けています。さらに海外にも広めていくために、見ているだけで心安らぐ禅ストーンのような感じで、実用性と同時に硯の造形的な魅力をアピールしていきたいと考えています」 「今の子どもたちのほとんどは、石ではない樹 「芸術の道に進む上で、アメリカの作曲家・ジョン・ケージの作品『4分33秒』に大きな影響を受けました。作品が作品として成り立つためには自分が能動的に何かを得て、それに意味を見いだすことが必要なのです。そして肝心なのは、自分がその世界とどう関わるかということです。学生時代にこのような芸術に触れたことで、何のために物をつくるのかを意識するようになっていきました。 大学で彫刻を学び、ある程度の自信を持って家業に入りましたが、簡単にはいきませんでした。硯はただ面白い形だけでは良い物にならないことを実感したんです。当時、私の中では、芸術と地場産業的な工芸は別物だという感覚がありました。しかし今となってみれば、そんな境目は全く無意味だと感じますし、自分にとって硯は現代彫刻だといえます。硯は、実用的な物である一つの素材との出会い。自分と素材とが関係し合って形は作られていく。文化を支えているというプライド。そして見つめる未来。芸術と工芸に境はない。硯は精神を込めた現代彫刻。脂製の硯と、墨汁を使っています。書道への興味を広げるという必要性もあるので否定はしませんが、私のところに体験学習に来る子どもたちの多くも、硯が本来何のためにあるのかを知らないというのが現状です。ですから硯を作るよりも硯で墨をする体感を重視しています。実際に墨をすってみた子どもたちからは『気持ちが落ち着く』『いい匂いがする』などの声が聞こえてきます。すった墨で、毎回『夢』という字を書いてもらっていますが、墨の色やにじみ具合など、墨汁で書くのとは違ういろんな『夢』が表現されることに、子どもたちも楽しさを感じてくれています。 漢字を使っている限り、手で書く魅力はなくならないと思います。つまり硯は日本文化の中で、なくてはならないアイテムであることは間違いありません。その中で自分が硯の作品を作り続け、そして広めていくことで、微力ながら日本文化を支えている、そういうプライドを常に持ってやっているんです」甲斐雨端硯本舗・雨宮弥兵衛富士川町鰍沢5411/TEL.0556-27-0107※『4分33秒』はジョン・ケージが1952年に作曲した3楽章から成る楽曲で、休止を表すTACET(タセット)が全楽章で指示されていて、演奏者は何も演奏しない、というもの。「現代音楽」の一つであり多くのアーティストに影響を与えている。※雨畑硯を彫り続けてきた武骨な手。「ものづくりをする人間として、この手を誇りに思っています」と弥太郎さん05
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