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ページID:110930更新日:2023年9月26日
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令和5年9月定例県議会の開会に当たりまして、提出いたしました案件のうち、主なるものにつきまして、その概要を御説明申し上げますとともに、私の所信の一端を申し述べ、議員各位並びに県民の皆様の御理解と御協力をお願い申し上げたいと存じます。
先ず、人口減少危機対策についてです。
我が国では、世界に類を見ない急速なペースで進む少子化により人口が加速度的に減少し、これに伴い人口構造も高齢化が加速される事態に立ち至っております。
加えて、大都市圏と地方における人口移動の不均衡は、地方の過疎化や地域産業の衰退等をもたらす大きな要因となっています。
本県の人口動態においても、社会増減は2年連続の増加とはなったものの、自然増減については、ひとたび上昇の兆しを見せた合計特殊出生率が再び下降に転じ、総人口は43年ぶりに80万人を下回るなど、まさに危機的な状況となっています。
人口問題は、個人の選択と密接に関係するものではありますが、令和4年の合計特殊出生率は1.40と、県民希望出生率1.87から大きく乖離しております。
この背景には、結婚や子どもを望んでも、出会いの少なさや、経済的な不安定さ、子育ての負担感、出産・育児と仕事の両立の難しさなど、様々な要因から「希望が叶えられない」という、県民の社会に対する悲観的な捉え方があります。
私は、この人口減少という問題は、若い世代、更には、その先の将来世代からの警告であり、声なき抗議の声であると受け止めるべきであろうと考えます。
敢えて自戒をもって「私たち」というべき、これまでの世代は、こうなると分かっていながら、いつか、またいつかと、眼前の危機に対し、これまでなすべきことをなさず、目先の幸福ばかりを追求し、漫然と従前の取り組みを継続してきてしまいました。
そのような「私たち」に対し、今まさに命を産み出そうとしている若者、あるいは、これから産声を上げる子どもたちが、声なき声で叫んでいるのです。
この悲痛な叫びに、今度こそ正面から向き合う、私の強い決意を今ここで改めて表明いたします。
去る6月には、県民の皆様とこの決意を共有すべく、全国初となる「人口減少危機突破宣言」を行うとともに、7月に開催したトップセミナーでは、市町村・企業・団体の代表者の皆様と「人口減少危機突破共同宣言」を行い、オール山梨の体制構築に向けた基礎的な環境整備を図りました。
更に、7月末に本県で初めて開催された全国知事会議においては、各知事と様々な議論を交わす中、少子化対策が主要テーマの一つに掲げられ、政府の「こども未来戦略方針」に対する提言の取りまとめや、国と地方が方向性を一にし、総力を挙げて取り組む「山梨宣言」を採択しました。
この議論をリードし、その先駆たるべき本県において、県民に希望に満ちた選択肢を提示し、人口減少という危機を突破するためには、「『将来世代を含めた県民一人ひとり』が豊かさを実感できるやまなし」の実現に向け、取り組みを加速させなければなりません。
すなわち、子どもを産み、育てるための生活基盤を強く安心できるものとする「ふるさと強靱化」、全ての人に対して開かれ、若者や子どもたちの可能性を広げる「『開の国』づくり」を目指す施策を充実・強化させ、迅速かつ思い切って実施することこそが、人口減少危機の突破に不可欠であります。
8月には、あらゆる施策を総動員し、それぞれのライフステージにおいて、切れ目のない支援を実現するため、本県における対策の核となる政策パッケージの暫定プランを公表いたしました。
そのうち、出産・子育て支援については、出生率上昇のための基本的かつ最も重要な施策であり、強力に推進するべく、パッケージの要として取りまとめております。
このパッケージにおいては、あらゆる県民をして、山梨での暮らしに希望と将来への展望が開かれ、「家庭を持ち子どもを産み育てたい」という希望があまねく叶えられ、生まれてくる全ての子どもたちが夢を諦めず健やかに成長していけるという確信を持てるよう、取り組むべき大きな方向性を3つお示しいたしました。
1つ目の「安心できる生活基盤の整備」は、若い世代の方々が、本県で暮らしていくための基礎条件となる、住環境や雇用環境などの更なる充実を図るものです。
産業の安定した発展やリスキリング等による賃金の向上、子育て世代の経済的負担の軽減や住環境の整備、安心して働くための「介護待機者ゼロ社会」の実現といった施策を進めて参ります。
2つ目の「キャリアと子育ての両立」は、仕事と生活の調和が取れ、それぞれの人が自分らしく理想の働き方の実現を目指すものです。
男性の主体的な家事育児参加や、長時間労働の改善などによる働き方改革の推進、子どもを預ける保育施設や保育サービスの拡充、そして未だに残る、「子育ては女性が担い、家計は男性が支える」といったアンコンシャスバイアスの解消を図って参ります。
3つ目の「関係者との連携」は、あらゆるステークホルダーと協働して対策の推進を図るものです。
人口減少危機対策の取り組みを行う市町村への支援、労働環境改善に向けた関係者との協議、人口減少危機対策関係施策の効果検証などを進めるとともに、県内外の叡智を結集させ、この暫定プランをより良き政策パッケージに成長させて参ります。
また、この国家的課題そのものへの挑戦に当たっては、国の政策動向との連携が不可欠であり、先月、人口問題の専門家とともに山崎史郎内閣官房参与が来県した際に、本県をフィールドに、各種少子化対策が出生率向上に与える影響、有効性の検証を専門家グループが行っていく方針で一致いたしました。
先ずは、これまでの施策の効果検証から始め、その結果も踏まえながら、多くの達眼の士や知見を有する機関とも連携し、本県が全国に先駆けて様々な施策を実行し、結果を日本に還元していくなど、まさに挑戦と未来に近い実証フィールドとしての本県の本領を発揮し、国の政策動向と一体となって取り組みを進めて参りたいと考えております。
さて、人口減少危機対策は、長期的に、困難かつ複雑な社会的課題に取り組むものであり、今後、効果的な施策を立案するためには、先ずは、出生率上昇を阻害する要因等を十分に調査研究し、その上で持続可能な取り組みを実施する必要があります。
そのため、本県の人口減少危機対策を本格的に確立し実行していくための「初めの一歩」として、先ずもって「人口減少危機対策基礎調査」に要する経費を計上いたします。
この基礎調査では、若者が結婚をためらう理由や、希望する子どもの数を産まない阻害要因等について、経済的観点や住環境など、様々な観点から調査し、その結果を踏まえ、本県の子育て世代が安心して結婚・子育てを行うことができるようにするための効果的な施策を企画・立案し、これを迅速に本格展開して参ります。
もちろん、調査結果を待たずとも、すぐに始められる取り組みについては積極的に予算計上しております。
民間企業と連携し、結婚や子育てに対する漠然とした不安の解消を図るライフデザインの普及や、多様な言語・文化的背景を持つ子どもが安心して過ごすことができる国際保育の環境整備などに取り掛かることとしておりますが、これらの事業は、先ずモデルケースを創出し、これを「種」として、今後速やかに全県への波及や民間での自立展開を図るものであります。
こういった事業も含め、人口減少危機対策を全庁部局横断的に有機的連携を強力に確保しながら、今後長期にわたって取り組みを継続的に推進していくため、組織体制についても充実を図り、新たに知事直轄の組織として「人口減少危機対策本部事務局」を設置いたします。
この本部事務局の事務局長には部局長級を専任で充て、人口減少危機対策に係る庁内の施策調整及び進捗管理等を行うとともに、市町村や民間企業との連携窓口としての役割を担って参ります。
次に、人口減少危機対策以外の取り組みについて御説明申し上げます。
先ず、DXの更なる推進についてです。
我が国において「DX推進の必要性」が叫ばれるようになって久しくなりますが、ともすれば言葉だけが踊りがちであり、その現実的な恩恵が多くの事業者や市民を素通りしてしまいがちとなっているのではないでしょうか。
しかしながら、私は、山梨県におけるDXとは、「全ての県民・事業者が自身の身近な生活や仕事においてデジタル技術を『普段使い』できるようにすること」であり、いわば山梨における日常生活や事業の課題を解決するためにデジタル技術の活用が進むという「地域内発型DX」であるべきと考えます。
このため、本県における「DXの推進」には、一方で自身の身近な生活や仕事において、デジタル技術を活用できるユーザー側の素養を社会全体で培うとともに、他方において、多様なニーズに応え新たなシステムを構築するエンジニア側を育成することの両面を「車の両輪」として進めていくことが不可欠であります。
現在、6月議会で御承認いただいた予算により、社会全体のユーザーに向け、中小企業をはじめ、学校や自治会、商工会などを通じ、デジタルリテラシーを養う講座を開講しております。
一方、エンジニア側については、各業界がそれぞれで高度人材の育成・活用を図っているという状況でありますが、限られた人材を県内で効果的かつ有機的に育成・活用する必要があります。
そこで、DX人材の安定的な育成・供給に向け、中学・高校でデジタルスキルを学んだ生徒が大学等で更に磨きをかけながら、中高生などのデジタルスキル習得の指導を行ったり、あるいは、商工会等を通じ、相談員として中小企業等のDXを支援したりしていくという自発的な循環サイクル「DX人材育成エコシステム」の形成を進めて参ります。
今般、このエコシステム形成に向け、推進体制を強化するため、「地域ブランド・DX統括官」を廃止し、「DX・情報政策推進統括官」を配置するとともに、新たな組織として位置付け、知事政策局のDX推進グループ及び総務部の情報政策課を移管し、所管させることと致しました。
県庁内のデジタル活用に関しては、これまで若手職員を中心としたワーキンググループにおいて進めてきた研究の成果も踏まえ、先ずは生成AIを活用し業務の抜本的効率化を図って参ります。
本議会においては、AIに本県固有の情報を学習させることにより、AIの高度利用を図るための環境整備に要する経費を計上したところです。
今後は、生成AIの更なる利活用と「DX人材育成エコシステム」形成に向け、国の補助金の活用を含め、本格的な取り組みについて検討しつつ、業務効率化や県民サービス向上につなげて参ります。
また、県内市町村とも知見の共有を図っていくことを検討して参ります。
なお、ブランド・プロモーションについては、関連する広聴広報事業と効率的な運用を図るべく「地域ブランド・広聴広報統括官」を配置いたします。
次に、富士五湖地域を世界に類を見ない先進的な地域とする取り組み、富士五湖自然首都圏フォーラムにつきましては、先月、地元自治体とともに取り組みを進めていく共同宣言を行ったところです。
富士五湖地域を舞台に「自然首都圏」を具現化し、文化・芸術、産業、環境等の多くの分野において、グローバルなレベルにおいて、人・モノ・知識等が活発に交流して新たな価値を生み出すため、フォーラム参画団体が行う先進的な取り組みへの助成も含め、県として積極的・主体的に取り組んで参ります。
この一環として現在、新たに富士五湖地域に海外の大学等の教育・研究機関や国際的な人的交流に係る組織などが集まるグローバル・コミュニティを創出すべく必要な調整を行っているところであり、できるだけ早いタイミングで具体的な成果をお示ししたいと考えているところです。
次に、富士山登山安全対策等についてです。
イタリアの世界文化遺産、水の都ベネチアは、主にオーバーツーリズムが原因で、世界遺産としての普遍的価値が損なわれかねないとして、いわゆる「危機遺産リスト」に掲載される窮地に立たされています。
これは決して対岸の火事ではなく、世界文化遺産登録時にユネスコの諮問機関であるイコモスからオーバーツーリズムの解消を宿題とされている富士山において、来訪者コントロールは待ったなしに解決が必要な最重要課題であります。
富士スバルライン五合目の来訪者数は、世界遺産登録前の2012年には231万人でありましたが、イコモスはこの数をオーバーツーリズムとみなし、勧告を行いました。
この勧告に対し、富士スバルラインのマイカー規制の拡充や、登山者数を平準化するための啓発活動などの対策を行ってきましたが、2019年には来訪者数は506万人と世界遺産登録前に比べ2倍超に膨れ上がり、このままではいつ危機遺産に登録されてもおかしくありません。
富士山の現状が果たして世界遺産たりえるのか、ロイターやCNNなど欧米の90近い主要メディアで取り上げられており、富士山はもはや、地元や山梨県、静岡県、日本だけのものではなく、世界的な関心を集めています。
今年の富士山は、世界遺産登録10周年と、新型コロナの5類移行が重なり、登山者数が回復した一方、夜通しで一気に山頂を目指す「弾丸登山」の増加による重大事故発生のおそれがありました。
このため県では、弾丸登山の抑止策として、富士スバルラインの営業時間を短縮するとともに、登山者の安全確保対策として、巡回指導員の増員や七合目救護所の拡充に加え、混雑予想時の進行の一時的な雑踏管理など、県警察と連携し、現行法制度下において、可能な限りの手立てを講じて参りました。
しかしながら、こうした対策は対症療法的なものであり、来年の開山に向けて、登山の適正化を見据えた対策について、条例化を含めた検討を始めたところであります。
更に、富士山を「世界の宝」として存続させるためには、観光客も含めた来訪者コントロールが必須であり、富士スバルライン五合目へのアクセスを早急かつ抜本的に変える必要があります。
道路法・道路交通法などの現行法制度下では、道路に通行規制を行う場合は、道路の破損や交通に起因する障害があるときなどに限定されています。
つまり、富士スバルラインに電気バスを含め自動車を通している限り、来訪者コントロールは極めて困難ということになります。
これに対し、富士山登山鉄道は、緊急車両を除く一般車両の進入をできなくした上で、定時運行、予約制の導入、ロードプライシング的な運賃設定などにより、来訪者コントロールを完全に行うことができるため、富士山の来訪者コントロールの切り札と言えるものであります。
現在、6月議会で御承認いただいた各種事業を鋭意進めておりますが、富士山の世界遺産登録抹消という最悪の事態を避けるためには、富士スバルライン五合目へのアクセスの在り方に関する、より具体的かつ現実的な議論を加速させる必要があります。
このため、登山鉄道構想に係るシミュレーターによる実証や、車両メーカー、LRT事業者等に対するヒアリングを通じ、実際の走行システムや採算上の具体的な課題の調査・検討などを行う経費を計上し、議論に供して参ります。
今後、これらの結果も活用しつつ、また、様々な視点からの提案も大いに歓迎しながら議論の俎上に載せて、丁寧なコンセンサスの形成、ひいては具体的なアクションに向けた機運醸成を図って参ります。
次に、犯罪被害者等支援についてです。
犯罪被害者とその家族に寄り添い、被害の回復と軽減、生活の再建、二次被害防止等の人権保護を図る取り組みの充実は、困難からの脱却を支援し、その後の安全・安心な生活を支える、ふるさと強靱化に向けた重要政策の一つであります。
昨年12月に制定した犯罪被害者等支援条例に基づき、関連施策を総合的かつ計画的に推進していくべく、先月末に、犯罪被害者等支援計画を策定したところであります。
現在、国においても、犯罪被害者等の支援の抜本的見直しが検討されていますが、実行までには時間を要することが見込まれるため、当面は県による支援が必要と考えております。
そのため、今般、見舞金の支給や弁護士費用の支援など、経済的負担の軽減に加え、市町村担当者等の対応力向上のための研修会を実施いたします。
今後は、支援計画に基づき、関係機関が連携・協力し、被害者等が早期に被害から回復し再び平穏な生活を取り戻せるよう、着実に支援を進めて参ります。
次に、パートナーシップ宣誓制度についてです。
万人に開かれた「開の国」の実現には、一人ひとりの多様性を前提とした選択肢を増やし、「共生社会化の推進」を図ることが不可欠であり、また、県民が互いの個性や価値観を認め合い、支え合うことは、地域社会の強靱化にもつながるものであります。
県では、その第一歩として、「パートナーシップ宣誓制度」を11月から導入することとしておりますが、本制度は、双方又は一方が性的マイノリティである二人が、県に対してパートナーであると宣誓し、その事実を県が証明するものです。
今後、この証明をもって公営住宅への入居を、婚姻関係にある者と同様に可能にするなど、この制度の支援・サービスを拡充するとともに、性の多様性や性的マイノリティの方々への理解促進を図って参ります。
なお、今般の宣誓制度は要綱に基づく実証的な取り組みと位置付けており、効果を検証した上で、条例化を検討して参ります。
次に、「山梨の夏服」についてです。
今年の夏も猛暑日が続きましたが、本県の重要な地場産業であるテキスタイル産業は、ネクタイやスーツの裏地などを主力としてきたため、クールビズの更なる広まりなどにより需要が減退しており、環境の変化に対応した新たな製品の開発が課題となっております。
このため、県では、関係者と連携し、郡内織物の技術を生かし、暑い夏を快適に過ごすことができる「山梨の夏服」の製作に取り組んでおり、7月の全国知事会議では、伝統ある甲斐絹柄を現在に蘇らせたデザインで製作した夏服を、公式ウェアとして全知事に御着用いただき、高い評価を得ました。
本日も、この議場にいる全員に御着用いただいておりますが、この夏服が、「かりゆし」のように身近なプロダクトとして、カジュアル、オフィシャルを問わず広く愛用していただけるよう、県内外への普及促進に強力に取り組むこととし、所要の経費を計上いたしました。
具体的には、郡内織物業界を中心に服飾関連の業界などによる協議会を立ち上げ、より多くの事業者の参画のもと、自立的な産業として発展を目指して参ります。
また、量産化に向け、生地の機能性及びデザイン性の向上を進めるとともに、親しみやすい愛称を公募するなど、市場競争力の強化に取り組み、新たな価値創造による本県のテキスタイル産業の更なる振興を図って参ります。
次に、ブラジル連邦共和国ミナスジェライス州訪問の成果について御報告いたします。
本年は、本県と同州が姉妹県州を締結して50周年の節目の年であり、8月にミナスジェライス州を訪問し、その記念式典へ出席して参りました。
式典では、これまで築いてきた姉妹関係を確認し、より深化した互恵関係の構築を見据え、特に「青少年」「スポーツ」「観光・文化」の3つの分野について相互に協力していくことで合意し、「50周年記念覚書」を締結しました。
また、同州は再生可能エネルギーに大変注力しており、本県のP2Gに関する取り組みを紹介したところ、強い関心をお持ちいただき、現在、州知事の来県と米倉山の視察に向け、調整を進めております。
同州は人口第2位の豊かな州であり、ロメウ・ゼマ州知事は国政にも強い影響力を有する、将来を嘱望される人物でありまして、このような力強いパートナーと良好な関係を構築し、前向きな一歩を踏み出せたことは、今回の訪問の大きな成果であったと考えております。
次に、ベトナム社会主義共和国クアンビン省との姉妹県省締結についてです。
7月の本県視察団の訪越に応答する形で、9月19日、クアンビン省のタン書記をはじめとする訪問団の皆様を本県にお招きし、姉妹提携の協定を締結いたしました。
協定締結には、我々の強力なパートナーであり、同省出身の、ベトナム共産党中央組織委員長兼越日友好議員連盟のマイ会長の御尽力があったところです。
折しも本年9月21日は日越外交関係樹立50周年の記念日であり、このタイミングにおいて姉妹提携できたのは、両県省のみならず日越両国にとっても大きな意義があったのではないでしょうか。
姉妹県省締結を契機に、今後は実質的な協議をより深め、双方が持つ知見を交換することでウィンウィンの関係を構築し、新たな価値を創造して参ります。
当面、同省が大変注力している再生エネルギー分野において、グリーン水素の活用に向けて協議を進めるほか、同省は、自然環境と世界遺産としての価値をともに維持しながら、観光を高付加価値化させており、このようなノウハウを共有いただくなど、相互の強みを生かした交流を行って参ります。
青少年の分野については、令和6年1月末から2月初旬にかけて、県内の高校生がクアンビン省を訪問し、同省の高校生と対話をしながら、将来両県省の発展のための架け橋となってもらえるよう、実りのある交流をしていきたいと考えております。
なお、青少年の国際交流一般については、その体験が人格形成や国際的な考え方、更には継続した交流を育む基礎となることから、多くのパートナーと、より深化した交流に取り組んでおります。
姉妹県道締結30周年となる韓国忠清北道との間では、12月に忠清北道の大学生訪問団を迎え入れ、SDGsの視点も踏まえボランティア活動を取り入れた交流を行うほか、昨年12月に包括連携協定を締結したテンプル大学ジャパンキャンパスにおいては、県内高校生を対象とした本県独自の特別プログラムによる国内留学事業を実施いたします。
同キャンパスは、日本初のアメリカの大学教育を提供する場として世界各国から学生が集まっており、日本にいながら異なる文化への理解を深め、国際感覚を養うことができる学びの場であります。
全て英語によるコミュニケーションや、授業内外での国境を越えた協働活動を県内の高校生に経験してもらい、将来の共生社会を担うグローバルリーダーの育成につなげて参ります。
以上の内容をもって編成しました結果、一般会計の補正額は、35億円余、既定予算と合わせますと5539億円余となります。
次に、提出案件の内容につきまして御説明申し上げます。
今回提出いたしました案件は、条例案3件、予算案4件、その他の案件8件となっております。
先ず、新たな総合計画の策定についてです。
2期目となる県政運営の基本指針である新たな総合計画の策定に向けては、議員各位をはじめ、パブリックコメントや山梨政策評議会などからいただいた幅広い御意見を十分踏まえること、また、策定作業自体が集合知を組成するためのプラットフォームとなるように心掛けることを重視しながら、部局横断的に検討を進めて参りました。
本議会には、計画の基本的事項についてお諮りし、御議決いただいた上で、政策に連なる具体的な施策を書き加え、10月には新たな総合計画として策定して参ります。
次に、条例案のうち、山梨県部等設置条例の改正についてです。
先ほど申し述べましたとおり、「人口減少危機対策本部事務局」及び「DX・情報政策推進統括官」を設置し、関連施策を迅速かつ強力に推進して参ります。
このほか組織については、「地域ブランド・広聴広報統括官」の設置に加え、スポーツの成長産業化に向けた取り組みの強化を図るため、「スポーツ戦略推進監」を新たに設置して参ります。
最後に、山中湖畔県有地の賃貸借契約についてです。
8月4日に東京高等裁判所において下された控訴審判決については、司法の判断としてこれを尊重し、最終的に受け入れることと致しました。
この判決では、結果として平成9年及び平成29年に締結した賃貸借契約は有効との判断が示され、控訴は棄却されましたが、その内容は第一審に比べ県の主張を大幅に受け入れるものでありました。
中でも「別荘地としての開発によって得られる価値の増加」は賃借人たる富士急行株式会社に帰属する一方、「土地の造成による本件各不動産自体の価値の増加」については最終的に所有者たる県に帰属すべきものと判示された点は、極めて常識的かつ合理的なものであり、今後の適正な賃料改定への基盤を形成する見解として、高く評価できるものであります。
この見解に照らせば、県としては、富士急行が現在負担している賃料の額は、山中湖畔県有地の経済的価値に比して相当なものではないと改めて認識せざるを得ません。
そのため、控訴審判決の中で示された考え方並びに現在の賃貸借契約書に規定されている賃料改定に関する条項を踏まえ、早急に対応するべく、不動産鑑定を新たに実施し、これに基づき賃料改定に向けた交渉を粛々と進めていく所存であります。
加えて、その交渉に向けて、訴訟代理人であった弁護士に加え、不動産鑑定士の資格を併せ持つ弁護士を新たに代理人として選任したところであります。
他方、県はこれまで県有地に関する一連の訴訟において、現行の賃貸借契約について違法無効であるとの立場を採っており、賃料改定以前の問題と考えておりましたが、何らかの理由で賃借権が有効とされた場合に備え、予備的に、令和3年2月17日に、賃借人に対し、賃料の増額を申し入れておりました。
しかし、同意を得られず、令和3年4月1日以降の賃料改定には至りませんでした。
このように、現在の賃料が当該県有地の経済的価値に比して相当なものでないという、我々の主張が受け入れられていない状態を、控訴審判決が確定した後もなお放置することは、同社との間で賃料を従前のままとする合意が成立したとの誤解を生みかねず、今後の賃料改定交渉に悪影響が及んでしまう可能性が否定できません。
このことから、かかる事態を回避するため、令和3年4月1日から最初に賃料を改定する日までの間における賃料について、山梨県恩賜県有財産管理条例第16条の規定に基づき本議会で御議決いただきたく、議案を提出するものであります。
以上、提出案件の主なるものについて御説明申し上げました。
その他の案件につきましては、いずれも、その末尾に提案理由を付記しておりますので、それによりまして御了承をお願いいたします。
なにとぞ、よろしく御審議の上、御議決あらんことをお願い申し上げます。
最後に、今定例県議会は、「人の交流」というものが、コロナ禍における収縮・縮小ベクトルから富士山のオーバーツーリズムにみられるような急激な拡大ベクトルへの転換を経験した後の最初の議会となりました。
この歴史的な転機に臨むに当たり、改めて私の県政運営を通底する基本を申し述べたいと思います。
先ほど来、お話申し上げました、様々な施策の取り組みや内容は、全てが「ふるさと強靱化」と、「開の国」の先にある山梨の将来を築くものです。
すなわち、生活や社会基盤を将来にわたって持続あるものとする「ふるさと強靱化」を土台として、山梨県内外に向けて豊かさへの扉が開かれ、豊かさを呼び込む「開の国」という二層一体の上に豊かさ共創社会を目指すものです。
この目指すところを実現するに当たっては、奇策を求める必要はありません。
なすべきことで、今、なしうることを着実に積み重ねていくこと。
一つ一つ、丁寧に積み上げていくこと。
その努力を怠りさえしなければ、確実に到達できるはずです。
それゆえに、あらゆる場面に通じる取り組みの姿勢は、「時々の状況の変化、情勢の変化に機敏に対応し、かつ実りある将来展望への積み重ねを怠らないこと」に尽きると考えます。
この点は、コロナ禍以前から一貫して変わることなく、実践して参りました。
本年5月には、新型コロナウイルス感染症をめぐる、日常化という大きな節目を迎えました。
この間、県内外をめぐる生活環境や経済環境も、見える変化、見えない状況、様々な波に飲まれて参りました。
そして、新型コロナという感染症による災いを乗り越えつつある今、今度は、「人口減少」という我々の社会の全般的かつ根本的な在り方に起因する課題が極めて深刻かつ重篤な状況を突き付けています。
このような中では、県民誰しもが、明瞭な見通しを持ちにくく、漠たる不安感を随所で感じざるを得ない時間が推移していると言えるのではないでしょうか。
もちろん、コロナ禍も、人口減少も、そして、これらに起因する将来に対する逃れられない不安感も、県内のみならず、日本社会の全体を取り巻く情勢であります。
日本社会全体を取り巻く情勢であるがゆえに、これに対する私たち山梨県の向き合い方は、確固たる自立と自尊の信念を根本としながら、県内外の境なく智慧の交流を進める中で、県民の利益昂進が日本全体への貢献を果たさんとするものであり、そして、その日本全体への貢献が更なる県民利益を増幅させる循環を構築することを志向すべきものであろうかと信じる次第です。
県民における利益とは、決して今、目の前で秤量しうるものばかりではありません。
本県における利益とは、ある特定の地域や場所に限定されるものばかりではありません。
将来を築く豊かさを大きく、持続あるものとするためにも、部分や局所を超えた全体の利益を考えなければなりません。
それぞれの利益が全体の豊かさを育み、全体の豊かさがそれぞれにあまねく還元される。
それが本県の目指す豊かさ共創社会の在り方です。
そこには、境目や区切りはないはずです。
国中も郡内もないことは言うに及ばず、県内外・国内外、あらゆる地理上の線引きは決定的ではあり得ません。
なぜなら、山梨とは、県内でのみ生活や経済が完結している、閉じられた世界ではあり得ないからです。
だからこそ、智慧の交流によって生まれる集合知を大切にするべきと考えます。
過剰に過去に執着し、今この瞬間にただ漫然と固執することにこだわれば、より大きく開かれた豊かさへの針路を見失いかねません。
振り返れば、戦後の日本社会はいつしか、無数の規制・許認可・制度に溢れ、開かれた社会の到来に寄与させるべき当初の目的とは乖離し、むしろ新しい可能性にさえ閉じられた社会へと、私たちの生活は追い込まれ、今に至ったのではないでしょうか。
働けども豊かさが実感できない生活、家庭や子どもとの幸せを両立しづらい就労環境など、生きづらさ、幸せの感じづらさは、決して大人だけのものではありません。
子ども達もまた、ひきこもり、ヤングケアラー、進学と大きな悩みを抱えるに至りました。
そして、それが子どもから大人まで、途切れのない人生を通貫して離さない、解放されないのです。
更には、豊かさの実感が、幸福の実感に結びついていると言えるでしょうか。
78年間に及ぶ戦後という時代の中で、将来に向けられていたはずの多くの取り組みは、隘路にこそなれ、希望と展望をもたらし得なかった。
そう仮定するならば、その一因は、局所・個別の取り組みが、智慧のつながりを欠き、拡がりを欠いたがゆえであったからとも言いうるのではないでしょうか。
少子化への取り組みもしかりです。
戦後のベビーブーム、次いで産児調整政策を経て、そして今、日本の将来を揺るがす人口減少の危機と高齢者福祉という難題がもたらされました。
農山村振興、国土開発、地域振興もしかりです。
これまで間断なく振興施策と助成制度が展開されながら、今現在、将来に安心が持てる状況が到来しているでしょうか。
いずれも、局所・個別の施策が、将来展望というつながりを得て運営されてこなかった、その帰結としての、この瞬間の不透明な現在、見通せない今、という状況を招来しているとも言えないでしょうか。
だからこそ、本県はいずれの課題に対しても先頭に立とうという、強い覚悟と気概を持って臨まなければなりません。
本県が目指す「豊かさ共創」の、一人として取り残されることのない県土の展望は、それゆえに、智慧のつながりが生かされるべき、つまり、これまでも繰り返し申し上げて参りました、集合知の発揮を前提としなければならないと、ここで改めて申し上げたい。
いわば、集合知こそが、あらゆる施策前進のエンジンとも言うべきものです。
そして、集合知が発揮されるべき最前線は、ここ議会をおいて他にはありません。
繰り返しますが、智慧の流れに県境も国境もありません。
そこだけを守っていれば、今だけを守っていれば将来が展望できる、そうした眼前の利益にのみ懸命であっては、山梨が希求する新しい環境で、成長ある社会を築くことができるのでしょうか。
より大きな豊かさと、その実感を、得ることができるのでしょうか。
もちろん、頑張れども報われない社会であってはなりません。
試みれども実現できない社会であってはなりません。
労に報い、可能性を現実とする。
そんな山梨であるべきです。
だからこそ、県内外の区別はもとより、更には国内外の区別なく、切れ目のない集合知のつながりで施策を創らなければなりません。
施策をつなげ、我がふるさとを強く、そして富に開かれ、富を呼び込み、互いに育み合う、かような行政を実行しなければなりません。
ふるさと強靱化と開の国とは、決して理念や理想ではありません。
成長ある社会たる、豊かさ共創社会への手続きであり、手順です。
私はぜひ、議会の皆様、県民の皆様、そして本県を想い愛する全ての方々とともに、集合知を更に強く太く育み、ここ山梨を、希望と期待と豊かさに満ちた楽土へと、加速させていきたく思います。
令和5年9月26日
山梨県知事 長崎 幸太郎