更新日:2025年3月4日
ここから本文です。
結婚や子育てに踏み出せない若者に、行政ができることは何か。先ごろ、山梨県が「人口減少危機突破に向けた県民評議会」を開催。山梨県の人口減少に関する課題と取り組みの方向性について有識者と意見を交わした。その様子をレポートする。
まずは冒頭で長崎知事が、「人口減少は全国的な最も重要な課題」と強調。効果的な対応策について有識者の意見を結集し、具体的な施策につなげる考えを示した。
かつては年収が300万円を超えると子どもを持つ家庭が多かったが、近年は500万円台でも踏みとどまる人が少なくない。これは物価上昇だけでは説明がつかない。おそらくバブル崩壊以降、経済成長を体験していない若者は「今日より明日がよくなる」という未来への期待感を持ちにくく、「結婚や子育ては難しいかも」と不安になっているのが一因と考えられる。
長崎幸太郎山梨県知事
そうした状況を踏まえて、山梨県が推進しているのが「スリーアップの好循環」だ。働く人のスキルアップを企業の収益アップにつなげ、賃金アップを実現しようとする取り組みだ。若者が将来に明るい展望を持てる、努力すれば報われるような社会を目指している。
この考えに賛同して「スリーアップ推進宣言」をする企業も増えつつある。また、宣言した企業が参加できるリスキリング講座(やまなしキャリアアップ・ユニバーシティが提供)も用意されているが、まだ道半ば。さらなる好循環を生み出すためには、「企業のトップが人材育成は重要だと意識を強め、こうした講座へも積極的に社員を参加させる姿勢が大切」との意見が出た。また参加しやすい講座の内容かのチェックも必要。参加のハードルが上がらないよう、軽めのプログラムから始める段階的なスキルアップがうまくいくかもしれない、という見解も示された。
山梨大学 渡辺喜道教授
若者への周知については、ホームページに加えてSNSも活用することや、成功事例に加えて失敗事例を共有することが挙げられた。また、進学や就職等で県外へ出た人にアプローチするには、「山梨県を出るタイミングで有益な情報が届くアプリを使い始めてもらうのはどうか」といったアイデアも。「使わなければもったいない」と思ってもらえるくらいのアプリを提供できれば、押しつけにならず、各種情報発信にも効果的に使えそうだ。
がんばれば報われる社会をつくるには、「がんばったら結果が返ってくる」という体験を幼少期から積んでいくことも大切だ。義務教育の頃から、自己肯定感を育めるような成功体験を得られる取り組みができることが望ましい。すでに県では中高生向けにプロジェクト・ベースド・ラーニング(問題解決学習)の実証をしており、生徒たちはさまざまな課題を通して成功体験を積み重ねている。
南アルプス市議会 藤田亜由未副議長
結婚支援をめぐっては、「結婚以前に、おつきあいをしない人が増えている」という若者の恋愛離れが浮き彫りになった。ある大学教員は「交際している人のほうが少数派」と話す。昔に比べて、個人で楽しめることや楽しむためのツールが増えたこともあるだろう。また、告白をして失敗したくないという人も少なくないようで、それなりに出会いはあるのに交際にまで至らないケースもあるようだ。
県としては、やまなし縁結びサポート事業として、民間結婚相談所や市町村、ボランティアと連携して社会全体で結婚を応援する体制を整備。ウェブサイト「婚活やまなし」を運営し、出会いイベントなども開催している。県の調査によると、とくに未婚の女性の場合、婚活を前面に出さない、あるいは結婚を前提としない取り組みを望む傾向がある。
20年近く子育て支援に携わってきた委員は、「子育てをもっとポジティブなものとして発信したい」とコメント。現状、子育て支援という言葉は「大変なことを助けるもの」というニュアンスが強い。そうではなく、「純粋に『子育てって、いいな』と思えるような楽しさや魅力を伝えたい。そうすることで家庭や子どもを持ちたいと思う人は自然に増えるのではないか」とポジティブに伝えていくことを提言した。
NPO法人子育て支援センターちびっこはうす 新津幸理事
ただ昨今は、単純なSNSでの幸せ自慢は「リア充アピール」と取られてしまうこともあり、伝え方については検討が必要だという認識も共有された。より共感を得られる発信方法は今後模索していく必要がある。
若者の意識改革も重要なポイントだ。すでに大学ではウェルビーイングの観点から、キャリア形成やライフデザインの授業なども実施している。しかし、講義を受けてもなお結婚に二の足を踏む人は多いというから、さらなる工夫が必要なのだろう。「生きるための生きる力を身につける教科」ともいわれる小中高の家庭科と連携してみるとヒントやアイデアが見つかるかもしれないという声もあった。
最後に住まいの問題について意見を出し合った。県の調査では「住まいの満足度が高いほど、理想の子どもの数を持てている傾向にある」という結果が出ており、若い世代が安心して子育てできる住環境の整備は少子化対策としても重要だ。山梨県は都会と比べると地価や住宅価格が安く、都心では手の届かないような広い住まいも実現しやすい。こうした魅力は若い世代の不安を和らげる材料にもなるはずだ。
県では今後、子育てしやすい住宅に求められる機能や性能について、山梨県独自の基準を設けて認定していくことを検討している。これについては「同じ家族構成でも暮らし方は地域によって違うので、山梨県ならではの基準があるのはよい」と賛同する声があった。
山梨大学 田中勝教授
持ち家率が高い一方で、70平米を超えるようなファミリー向けの賃貸住宅が少ないという課題もある。持ち家でも賃貸住宅でも住まいの選択肢が増えれば、ライフステージに合わせた住まいがより選びやすくなる。
最近は3世代で暮らす人も減り、自宅に畳の部屋がなかったり、縁側を知らなかったりする若者は珍しくない。しかし、自分が将来的にどんな住まいで、どう暮らしていくかを設計するには、住まいの基本的な知識は必要。住まいに関する教育の充実も必要になってきそうだ。「学校教育や生涯学習の講座の中で実施してはどうか」というアイデアも寄せられた。なお、山梨県では、住宅(持ち家)を取得しようとしている方を対象とした個別相談を受け付けている(やまなしKAITEKI住宅コンシェルジュ ※2025年3月9日まで)。
人口減少突破に向け、スリーアップによる経済支援、結婚支援、住環境の整備など、さまざまな支援に取り組んでいる山梨県。今回の評議会での意見も参考にしながら、さらに施策を充実させていく予定だ。
山梨学院大学古屋亮教授
山梨県ではキャリアアップや結婚、住宅取得など、若者を支援する取り組みを幅広く展開している。
山梨県の企業で働く人を対象に、DX講座やコミュニケーション講座、経営マネジメント講座など、さまざまな講座を開催している。
「婚活やまなし」は、山梨県が運営する婚活応援サイト。縁結びサポーターの主催する婚活イベント情報等を掲載している。
県内では、住宅を購入している人を対象に、無料の個別相談会「やまなしKAITEKI住宅コンシェルジュ」を開催している。
このページに関するお問い合わせ先
より良いウェブサイトにするためにみなさまのご意見をお聞かせください
トップ > 組織案内 > 人口減少危機対策本部事務局 > 人口減少危機対策課 > 山梨県人口減少危機対策特設サイト > 特集記事一覧 > 山梨県の結婚・子育て支援を有識者と考える!未来が不安な若者へ行政ができることは?