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長年の経験により磨き上げられた技術で、貴金属を自在に操り、カタチにしていく宝飾加工界の巨匠・深澤利彦氏。
何の変哲もない一枚のプラチナが、深澤氏の手にかかると、世にも美しい立体的造形美となって生まれ変わる。
ジュエリー産地山梨の職人の代表として、「ジュエリー用語辞典」の編集にも携わった氏の魅力に迫った。
これはね、ロウ付け(※1)してるんだよ。ウチじゃないとできないからって頼まれてね。ここレース状になってるでしょ?この細かいところを直すのが難しくて他じゃできないんだよね。小さいからロウ付けが難しくてね。けど僕はワックス(※2)がないときから、イルカとかマッターホルンとか(笑)、色んな物作ってきたからどんなこともできる。地金を曲げたり伸ばしたり、くっつけたりしてね。もちろんワックスを削って作ることもできるよ。
(※1)ロウ付け:加熱により母材より融点の低いロウ材を溶かして一体化する接合方法。加熱には主にバーナーを用い、ロウ材のみを溶かすために温度調節を行う。
(※2)ワックス:ロストワックス法の原型に用いる材料。ナイフ等で簡単に切削できる。成形したワックスを埋没材で囲み、加熱脱ろうし、その空洞に溶解金属を鋳込む鋳造方法をロストワックス法という。
指にタコができてるから全然熱くないんだよ(笑)。素人が持ったら熱いけどね。あとね、この「手持ちのロウ付け」ってのは甲府の強みなんだよ。県外とか海外の場合は「第三の手」っていう補助する道具を使うんだよね。だけど甲府の職人は器用だからバーナーだけを固定して、地金は手で持ってロウ付けができる。だから早いんだよね。
昔は自分で描いて作ってた。だからデザイン画を見れば完成品のイメージが立体的に頭に湧くんだ。デザイナーの思いを酌み取って、デザイン画を忠実に再現することが大事なんだよ。だから地金をどう加工して、どうやって表現するかっていう研究は今でもしてるんだ。
これはね、「フィットぷれーと」って言うんだ。特許を取ったアイデアなんだよ。イヤリングって長時間付けてると耳が痛くなるでしょ。何とか痛くないものを作ろうと思って考えたんだ。これ使うと全然痛くないし滑り落ちない。どんな耳たぶでも付けられるしね。今持ってるイヤリングに簡単に取り付けられるんだよ。やっぱり消費者に安心して着けてもらって喜ばれるってのがベストだからね。
うん。手作りにこだわっているのもそう。手作りの味わい、ヒトの手で作らないと出ないカタチの柔らかさっていうのかな。CAD(※3)とかで作るときちんとした幾何学模様になっちゃうんだよね。だからジュエリーを長年着けている人って、量産品は冷たいって言うよ。だけど僕らみたいに地金加工が好きな人ってのは手で最後まで作るからね。手作りじゃないと出ない味ってのがある。作るプロセスを楽しみながらやってるよ。
(※3)CAD(Computer Aided Design):コンピュータを利用した設計。
そうだね、直線は難しいかな。僕が若い頃よく作ってたのが直線のカフスボタン。28歳で独立して今の会社を作ったんだけど、それまでは婦人物は作ったことなくてね。だけどカフスボタンを作った経験が今もすごい役立ってる。左右対称が分かるようになったからね。あとはね、大きい物。一つのパーツをロウ付けしていると、そこだけ温度が上がっちゃうから他のパーツが取れちゃうんだ。だけど七輪の上に鉄板を置いて、その上でやると全体の温度が一定になってね、ロウ付けしやすくなるんだ。昔、親方にそれを教わってからはだいぶ楽になったよ。コンテストに出した大きいネックレスもそのおかげかな。
ちょっと前まではデザイナーと組んでよく出してたよ。いいデザイナーが育ってきた時期でね。斬新で複雑なデザインを出してくるんだよ。それを僕が一生懸命カタチにしてね。ほら、雑誌にいっぱい載ってるでしょ。
そうだね。この道を目指す人にアドバイスするとすれば、まずは相手のニーズに応えて、ちゃんと作れるようになること。基本的なことを学んでから自分の作りたい物を作ればいいんじゃないかな。僕はジュエリーマスター制度の試験実施委員をしているから、若手の職人や宝石美術専門学校の生徒の作品をよく見るんだけど、みんな上手くなってきてる。今は遠回りに感じるかもしれないけど、基本を地道に学んでおけば、どんなことでもできる素晴らしい職人になれる。だからこれからも頑張ってほしいと思うよ。
2011年1月21日 インタビュー掲載
名 称:錺工房深澤
住 所:山梨県甲府市東光寺2-31-3
T E L:055-237-0258
F A X:055-226-4191
事業内容:手作りによるリング、イヤリング、ピアスなど装身具全般の制作・修理
自社の強み:何でも作りたい物を形にできます。デザインの持ち込みはもちろん、自社でのデザインも可能です。磨き、石留めはもちろん、様々な修理を受け付けます。まずはお電話してください。
両手でピンセットを巧みに操り、バーナーでロウ付けをする
繊細な加工が施されたリング。
ここまでの細かい加工は深澤氏でなければできない。
リアルに再現された葉っぱにカラーストーンが輝く。
コンテスト受賞作品(誌面掲載写真)
深澤氏の手。
長く伸ばした爪も細かい作業をする上で役立つという。
●1945年生まれ。●山梨県の職人の代表として「ジュエリー用語辞典」の編集に携わる。●黄綬褒章受章。平成21年度山梨県伝統工芸技能者受賞。現代の名工。●山梨県ジュエリーマスター認定委員を務める。●全日本デザインコンテスト最優秀賞、プラチナギルド賞など各種コンテストでの受賞歴多数。
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