更新日:2024年12月19日
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山梨県は人口減少危機対策の一環として、県内の高校で「ライフプラン作成出前講座」を実施している。高校生たちが将来の進路や働き方、結婚、子育てを具体的にイメージし、人生の計画(ライフプラン)を立てるきっかけをつくるのが目的だ。2024年10月、駿台甲府高校の2年生を対象に行われた講座を取材した。生徒が自らの思いを現実として描くことができるよう、ライフプランの形成を支援する取り組みを紹介する。
この日の講師である山梨県人口減少危機対策本部事務局人口減少危機対策企画グループの飯塚和美さんの呼びかけに、生徒たちは真剣な表情で考え始めた。大人にとってはあっという間の10年も、高校生にとっては近くて遠い未来。住まいのこと、仕事のこと、家族のこと……。パッと浮かばない人も多いようだった。
講座ではまず、山梨県の現状について説明があった。2000年の88.8万人をピークに人口は減少を続け、2023年には80万人を割り込んだ。2050年には約61万人まで減少する見込みだ。若年層の県外流出や高齢化の加速で、働き手も社会の担い手も減少し、地域の活力低下が懸念される。
「人生は選択の連続。夢を叶えるために、想像した10年間の自分を実現するためには、ライフプランが大切です。想定通りにならないこともあるからこそ、早めにライフプランを考えて、夢の実現のために今できることを考えておいてほしいと思います」と飯塚さんは説明する。
ライフプラン設計に必要な要素は「夢や目標」「資金計画」「リスク管理」だという。この日はとくに資金計画について、具体的な数値を見ながら理解を深めた。人生の3大費用といわれる住宅費用・教育費用・老後費用は地域差が大きい。
たとえば住宅購入費用は東京都では約6,620万円、山梨県では約3,950万円(住宅支援機構「フラット35利用者調査2022」より)。また、月額で比べると、教育費は東京都では1万1,100円、甲府市では月額約3,200円。老後費用は東京都では約28万円、甲府市では約24万円(いずれも家計調査2022/総務省より)。どこに住むかで生涯に使うお金が変わってくる。
また、講座では、働き方の多様化についても触れられた。テレワークの普及で場所や時間にとらわれない働き方も増えている。
「あなたは、どんな職場でどんな働き方をしたいですか?」
飯塚さんの問いかけに、生徒一人ひとりが真剣に考えていた。
結婚や出産についても考える機会となった。近年は晩婚化が進み、第1子出産時の平均年齢は30歳を超えた。1人の女性が生涯に産む子どもの数も1.3人にまで減少している。
講座の最後には、実際にライフプランシートを作成し、10年後、20年後の姿を書き出した。周囲の生徒と共有することで「こんな選択肢もあるんだ」と気づきも生まれていたようだ。
飯塚さんは「本日の講座が自分の望む人生を描く第一歩になれば嬉しいです」と締めくくった。
漠然としている未来も、具体的な数字や選択肢を知れば、より現実的なライフプランを描ける。100分という限られた時間だったが、生徒たちが人生に向き合う貴重な機会になったようだ。
講座に参加した生徒に感想を聞いてみた。
岡部時士さんは講座中に、10年後の自分として東京で働いている姿を思い浮かべたという。
「東京は会社の数が多く、選べる仕事の幅が多いイメージがあります。ただ、具体的な費用までは考えていませんでした。今回の講座で思った以上に暮らしにはお金がかかることを知り驚きました。生活コストが低いのは山梨県の魅力の一つかもしれませんね」
文系だがプログラミングに興味があるそうだ。ITを活用した仕事なら働く場所を選ばないかもしれない。
「山梨県は東京都に隣接しているのもいいですね。いっそのこと、山梨県が首都になって、もっと栄えてくれたら嬉しいです(笑)。人口が少ないからこそ生まれる温かいつながりも魅力です。遊びに行く先々で友だちに会うことが多くて嬉しいですね」
中島萌花さんは、講座で改めて山梨県が直面している人口減少問題と向き合った。
「これまでまったくライフプランを考えてこなかったけれど、今回の講座が考えるきっかけになりました」と話す。大学は県外への進学を希望しているが、Uターンも含めて将来暮らす場所については柔軟に考えているという。
「漠然と社会に貢献できる仕事がしたいと思っていて、その仕事がどこでできるかによって、住む場所も決まってくると思います。自分自身がキャリアアップできる場所かどうかも考えたいですね。山梨県の良さも実感しています。東京ほど騒々しくなく、静かで落ち着いていて、暮らしやすいと思います。もう少し遊ぶ場所があっても良いとは思いますが(笑)」
地域としての可能性も感じているそうだ。
「山梨県の特産品であるフルーツを活かした商品開発など、農業分野においても若い世代が新しいことにチャレンジできる余地がたくさんあると思います」
長野県出身の芦沢宗紀さんは、親元を離れ、ハンドボール部に所属し、寮生活を送っている。将来は教師を目指している。
「進路や働くことまでは考えていましたが、今回の講座はその先の結婚や子育てまで考えてみる良い機会になりました」
もともと都会志向ではないという芦沢さんは、地方での暮らしに魅力を感じている。
「将来は地元の長野県に戻ることも考えていますが、山梨県での暮らしも好きです。両県に共通しているのは、海はなくても山に囲まれた豊かな自然があること。都会では味わえない空気感がありますね」
3人とも現時点で「将来山梨県で暮らす」と決めているわけではないが、生活コストの低さ、都心部へのアクセスの良さ、豊かな自然環境、さらに人とのつながりの温かさや新しいチャレンジの場としての強みを感じている様子。講座を通じて改めて山梨の魅力を確認し、地元での進学や就職、Uターンなども将来の選択肢として真剣に考えるきっかけとなったようだ。
講座に参加し、進学だけでなく、その先の将来を考えるきっかけとなったようだ。
県では、人生の早い段階から、「仕事」「結婚」「妊娠・出産」「子育て」などの人生設計を考える機会を提供するために、ライフステージごとに考える相談窓口を開設している。
こうした相談窓口を活用しながら、誰もが自分らしい人生の選択肢を広げていくことができる。
山梨県では、人生の早い段階から人生設計を考える機会を提供するために、ライフステージごとに考える相談窓口・啓発事業所を開設した。
世帯年収に応じて、私立高校授業料の平均額(最大年40万円/年)が助成される。
大学・短大・高等専門学校・専門学校への進学を支援するための制度。世帯年収等の要件を満たし、支援対象となる大学等に進学する場合は、授業料等の免除または減額を受けられる。
山梨県では、中小企業と連携して、県内に就職する大学生等の奨学金返還を支援する制度を創設。条件を満たすと県と登録企業が協力して奨学金の返還を支援(補助金交付)する。
人口減少問題や暮らしにかかる費用を知り、改めて山梨県での生活を見つめ直していた生徒たち。豊かな自然や人とのつながりなど、当たり前すぎて気づかなかった故郷の魅力にも気づくきっかけになったようだ。進学や就職で一度は県外に出たとしても、ライフステージが変わるごとに故郷での暮らしの価値もまた違ったかたちで見えてくるのかもしれない。
取材・文:古屋江美子(山梨県甲府市出身・やまなし大使)
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