トップ > 組織案内 > 県教育委員会の組織(課室等) > 埋蔵文化財センター_遺跡トピックNo.0488安道寺遺跡出土の釣手土器
ページID:87968更新日:2018年11月26日
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甲州市の遺跡
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遺跡の概要所在地:山梨県甲州市塩山中萩原安道寺 時代:縄文時代中期中葉~後葉(今から約5300年前~約4500年前) 調査機関:山梨県埋蔵文化財センター 報告書:山梨県教育委員会1978『安道寺遺跡調査報告書(概報)』、山梨県教育委員会2018『山梨県内分布調査報告書(平成29年1月~12月)』
安道寺遺跡は、甲州市にある小倉山の南側に張り出した台地上に位置する縄文時代中期の遺跡です。主要な出土土器には、県指定文化財である水煙文土器等があります。 今回は、安道寺遺跡の土地所有者の方が発見した資料を参考に縄文時代中期の釣手土器の概要・変遷を紹介します。 釣手土器とは?形:鉢の上部に釣手を付けたものが釣手土器です。 用途:釣手土器は、灯火具とする説が有力な土器です。長野県井戸尻遺跡には煤が付着した資料があります。ただし、煤が付着していない事例もあり、用途の確定はされていません。 事例数:全国で縄文時代中期に約240遺跡400例、後期に約80遺跡360例が確認されています。出土が確認される遺跡から、1遺跡に1〜2個出土することが一般的です。 分布:縄文時代中期中葉は西関東〜中部高地一帯に分布します。中期後葉には分布域を広げ、東海地方や北陸地方でも出土します。 釣手土器の変遷文様:中期中葉は動物モチーフや顔面把手を採用します。中期後葉の文様は、円形・渦巻等です。前時期と比べ簡素な文様を施します。 形:釣手土器の形には「二窓式」や「三窓式」、「多窓式」、「把手式」などがあります。三窓式、多窓式は中期中葉に多い形です。把手式は中期後葉から出現し、二窓式は中期後葉に多い形です。 多窓式の釣手土器は長野県塩尻市周辺に数例報告されています。長野県朝日村の熊久保遺跡等に事例があります。 安道寺遺跡出土の釣手土器文様:釣手部の文様は、動物をモチーフとした文様があります。正面にある波状文は蛇を模していると考えられます。側面には猪を模した文様があります。よく見ないと分かりませんが猪の口の表現もあります。釣手部の頂部には人面文様があります。こうした動物をモチーフとした文様と人面文様が付けられる土器は、縄文時代中期中葉の特徴と言えます。
形:「二窓式」であり、縄文時代中期後葉に多い事例です。二窓式と三窓式は「この時期には二窓式/三窓式しかない」という事実はありません。このため、形から時期を明確に判断することは難しいです。ただし、「把手式」のように中期後葉からのみ出土する形もあり、時期を判断する材料になることもあります。 使用痕:この釣手土器には煤は付着していません。灯火具説を支持するのは厳しいですね…。 時期:まとめると、文様は中期中葉で形は中期後葉の特徴を持っています。この釣手土器は形からは明確な時期は言えないため、文様の時期で判断することになります。よって、中期中葉の時期と推定できます。
釣手土器1つ見ても様々な特徴があります。こうした1つ1つの要素を観察し、それぞれどの時期の特徴かを見極めます。そして、総合的にいつの時期に相当するか判断します。 考古学を仕事としている我々は、こうして時期を判断しています。 ぜひ考古博物館で土器を様々な角度から観てみましょう。 次の遺跡トピックスへ|遺跡トピックス一覧へ|一つ前の遺跡トピックスへ
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