トップ > 組織案内 > 観光文化・スポーツ部 > 山梨県埋蔵文化財センター > 遺跡トピックスNo.529中世の凹み石

ページID:105652更新日:2022年9月6日

ここから本文です。

遺跡トピックスNo.0529中世の凹み石(くぼみいし)

 

日用道具としての解釈

1986年に発見され、1987年に白州町教育委員会によって発掘調査が行われた坂下遺跡では19点の凹み石が遺物包含層や水路脇から出土しています。この報告書で、凹み石について、「凹石状石器」として以下のように言及しています。包含層から出土した凹み石は内耳土器と共伴関係にあり、中世のものであること。発見された凹み石のうち1点を除いて扁平な礫を使用しており、6点は底面に凹みがあり、使用に際して安定性を求めていたことが類推できること。また、凹み部分が摩耗のため貫通し、廃棄が類推されるものがあること。ここでは使用目的などについて言及されていませんが「ものをすり潰すための石器である。」と述べていることから、日常的な道具として解釈しています。

山梨県埋蔵文化財センターの報告書では、1989年に発掘調査が行われた韮崎市大輪寺東遺跡の報告書の中で凹み石の性格について以下のような検討を行っています。

凹み石は、建物跡と暗渠から石臼、地輪などとともに出土しています。やはり、凹み部分が貫通し廃棄が類推されるものが出土しています。

ここでは、民俗事例から、井戸掘りの際に利用した巻き上げ機の軸受け石に似ていること、安定性を出すために底面に凹みを設けていること、上部からの摩擦により底面が抜けていること。上記のことから坂下遺跡では用途を不明としていた凹み石を「かくらさん」として一歩踏み込んだ形で報告しています。

大輪寺東遺跡から出土した凹み石

画像『大輪寺東遺跡』山梨県教育委員会,1990,図版27

儀礼具としての解釈

1999年に行われた甲府市秋山氏館跡の発掘調査では、集石墓から凹み石が出土しており、今井惠昭氏の論文を引用し、葬送儀礼との関連を示唆しています。

2007年発行の韮崎市御座田遺跡の報告書では、それまでの学説を整理しつつさらに検討を加えています。特に出土状況に注目しており、ほぼ逆位で出土していることから、儀礼をともなう穿穴の可能性を指摘しています。

 

その他の事例

山梨県内の凹み石が出土した事例を取り上げますが、正位、逆位などの出土状況はわからないものです。

1994年から1996年にかけて行われた南アルプス市宮沢中村遺跡では、5点の凹み石が出土しています。3点が民家である建物跡付近から、2点が寺院跡付近からの出土です。

2001年に山梨県埋蔵文化財センターによって行われた中央市北河原遺跡の発掘調査でも凹み石が墓域近辺の溝状遺構から集中して出土しています。

2012年の甲府市塚本遺跡の発掘調査では、五輪塔部材とともに出土しており、近現代の遺物として報告されています。

宮沢中村遺跡の凹み石

画像『宮沢中村遺跡一般国道52号改築・中部横断自動車道建設に伴う埋蔵文化財発掘調査報告書』山梨県教育委員会他,2000,図版24

全て割れた状態で出土している。意図的破壊かどうかの検討が必要。

石に穴を穿つ儀礼的行為

大宮神社の巨石

大宮神社盃状穴甲府市羽黒地区の大宮神社の巨石と穿たれた凹み

世界的に見ると、ヨーロッパや中東では新石器時代の遺跡から盃状に穴を穿つ行為跡である盃状穴がみつかっています。日本で最も古い事例としては、古墳時代の石棺の蓋に人為的に凹みが穿たれており、近世以降の事例として、道祖神や神社の手水鉢などの石造物への穿穴があり、戦後は子供の遊びとして残っていました。近代以前の盃状穴については、海外、日本の事例でも儀礼的行為として指摘されていますが、これらは不動産に対するものであり、凹み石のような動産への穿穴とは、性格が異なるかもしれません。

結語

これまでの報告書の情報のみでは、この凹み石が日常的な使用目的で作られたものか、儀礼的な目的で作られたものかは、明確な結論が出せません。

この「凹み石」は非常に庶民的な行為のようで、文献上ではみつかっていません。特に中世のものについては、今後『御座田遺跡』で指摘されているような墓域や宗教施設との関連性があるのかないのか、正位逆位での出土状況、使われている石の材質、穿穴の方法などの「モノ」から読み取ることの出来る考古学的な事例を積み重ねることと『秋山氏館跡』でとりあげられたような民俗学的な事例を積み重ねていくことで、その「凹み石」という事象に近づけるのかなと考えています。

 

参考・引用文献

『坂下遺跡』白州町教育委員会,1988,p66~p70

『大輪寺東遺跡』山梨県教育委員会,1990,p38

『秋山氏館跡―甲府都市計画行路高畑町昇仙峡線建設工事に伴う発掘調査報告書-』甲府市・甲府市教育委員会,2001,p96

山梨県文化財研究所編『御座田遺跡―多目的広場。総合福祉センター建設に伴う発掘調査報告書―』2007,p38

『宮沢中村遺跡一般国道52号改築・中部横断自動車道建設に伴う埋蔵文化財発掘調査報告書』山梨県教育委員会・建設省甲府工事事務所・日本道路公団東京第二建設事務所,2000,p57

『塚本遺跡2.』甲府市教育委員会,2012,p8

次の遺跡トピックスへ遺跡トピックス一覧へ一つ前の遺跡トピックスへ

 

山梨県埋蔵文化財センタートップへ

このページに関するお問い合わせ先

山梨県観光文化・スポーツ部埋蔵文化財センター 
住所:〒400-1508 甲府市下曽根町923
電話番号:055(266)3016   ファクス番号:055(266)3882

このページを見た人はこんなページも見ています

県の取り組み

pagetop