更新日:2022年8月30日

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祖父の食への想いが繋ぐ卵づくり

田辺竜太氏

山梨県南東部の富士北麓に位置する南都留郡忍野村。標高約1,000メートルの豊かな自然と地下水に恵まれたこの地で、雄大な富士山を背に一羽一羽の鶏に向き合う養鶏場があります。祖父の代から養鶏を営む「田辺養鶏場」の田辺竜太さんは、水、餌、飼育環境すべてにこだわり、安全安心で品質の高い卵づくりに励んでいます。令和3年には、山梨県肉畜鶏卵共進会「鶏卵の部」金賞を受賞。養鶏にかける想いや未来に向けた取り組みについて伺いました。

手作業で集卵し一羽一羽に向き合う

鶏の様子

忍野村は四方を山に囲まれた高原盆地。冷涼な気候なので暑さに弱い鶏が過ごしやすく、富士山の伏流水に水源を発する「忍野八海」でも知られる良質な水で育った鶏の卵は、特有の生臭さがなく白身がしっかりとしていると言います。
職人気質だった先代の頃から餌づくりにもこだわり、魚粉やゴマ、海藻をメインとした安全で栄養価の高い飼料を、成長過程や季節に合わせて配合。「手間と時間はかかりますが、安全で美味しい卵を届けたいという想いで、オリジナルの飼料を作っています」

田辺養鶏場では現在、1万〜1万2千羽の鶏を飼育しており、毎日最大1万個ほどの卵が採れます。ケージの間を台車で巡りながら、一個一個手作業で丁寧に集卵。「そうすることで鶏さんの様子を毎日確認でき、病気などの変化にもいち早く気づく事ができるんです」と田辺さんは優しい眼差しで鶏舎を見つめます。
生き物を相手にする養鶏に休みはありません。「冬は雪、夏は台風。鶏は毎日卵を産むので、どんな気候でも快適な環境を保てるように日々管理が必要です」。水道管が凍結する冬場は、手作業で水をあげることも。常に鶏に寄り添い、手を掛けることで生まれる高い品質の卵は、第49回山梨県肉畜鶏卵共進会「鶏卵の部」で金賞を受賞しました。

オリジナルブランドである“忍野のたまご”は、濃厚なコクでしっかりとした味わいの赤玉と、白身が多く起泡性の高いさっぱりとした味わいのピンク玉があります。都内のレストランなどでも高い評価を得て、県内外問わず取引が増えています。
「うちの卵を気に入ってくれているシェフから、『ここの卵じゃないとだめなんだ』と言ってもらえたときは嬉しかったですね。白身がしっかりとしているから泡立てに時間がかかると言われることも。その分、つやがある状態の良いメレンゲができるんです」と田辺さんは目を細めます。

販路拡大、6次産業化も進める

赤玉とピンク玉

田辺養鶏場は、田辺さんの祖父が戦時中に食べ物に苦労したことから「食を通じて地域を豊かにしたい」と、1970年代初頭に自宅の軒先で数羽の鶏を飼い始めたことからスタートしました。
少しずつ鶏舎を増やし、地域の人たちに美味しい卵を届けられるようになる中、1977年に二代目である父に養鶏場を継承。試行錯誤を繰り返しながら養鶏を続けてきました。
大学卒業後から、15年ほど県外でサッカーに関わる仕事をしていた田辺さんは、当初養鶏場の跡を継ぐつもりはなかったそう。「本当は、父の代で廃業する予定だったんです。でも、父が急死し、実家を行き来していた時『ここを残してほしい』と声をかけられ、話をする中でこの養鶏場が多くの人に愛されていたんだと知ることができました」
2016年に父が亡くなり、翌年、意を決して忍野に戻ってきた田辺さん。母や、長年養鶏場を支えてくれている従業員らから養鶏や経営を学び、2020年に当時代表を務めていた母からそのバトンを引き継ぎました。

現在、採れた卵の5割ほどは鶏舎近くの直売所などで直接販売され、それ以外は宅配やふるさと納税の返礼品のほか、スーパーなどにも卸しています。しかし、田辺さんはさらに販路を拡大すべく模索を続けています。
「昔からお世話になっている養鶏場さんからもアドバイスをいただき、都内のマルシェや通信販売など販売の機会を少しずつ増やしています」。さらに週末限定で、母の実家をリノベーションした『たまご食堂』も始動。6次産業化にも力を入れようと考えています。初卵(注1)のフライや鶏そぼろ丼など養鶏場ならではのメニューを食数限定で提供し、来店客の反応を見ながら独自商品の取り組みにも繋げたいと考えています。

(注1)初卵:雛から鶏に成長した雌の若鶏の、産み始めの卵のこと。

アニマルウェルフェアを意識

鶏舎内の様子

田辺さんが最近強く感じているのが「消費者の食に対する意識の高さ」。「食のプロに限らず、一般消費者からも餌や飼育方法などについて聞かれることが増え、卵の背景まで気にして購入される人が増えています」。その気持ちに応えるため、「安全安心な美味しい卵について、これまで以上に注力していかなければいけない」と田辺さんが取り組み始めているのが、家畜にとってストレスや苦痛の少ない飼育環境を目指す「アニマルウェルフェア(注2)」の考え方を取り入れた飼育環境の見直しです。
「現在しているケージ飼いも、外気を充分に取り込める開放型の鶏舎で、掃除効率が良く鶏の健康管理がしやすいなどのメリットがありますが、さらに鶏がのびのびとストレスなく過ごせるように、今後10年かけて平飼いや放牧にシフトしていこうと考えています」

(注2)アニマルウェルフェア:家畜の誕生から死を迎えるまでの間、ストレスをできる限り少なくし、行動要求が満たされた健康的な生活ができる飼育方法を目指す考え方で「家畜の快適性に配慮した飼養管理」のこと。

“食を通じて喜びを”祖父の想い胸に

田辺竜太氏

常に鶏のことを第一に考えている田辺さんのストレス発散方法は、子どものころから続けているサッカー。現在は地元でサッカー指導者としても活動しています。「子どもたちと接する中で、身体づくりや食育の大切さも感じ、プロのシェフを招いた料理教室も開催しました。マヨネーズやポテトサラダなど卵を使った料理を中心に、今後もイベントなどに合わせて開催していく予定です」

食を通じて地域の人に喜びと笑顔を与えたい-。「新しい取り組みにも力を入れていますが、根底にあるのは創業時の祖父の想いです。私は戦争も経験していないし、食に苦労した経験もありません。しかし、先人たちが生きた大変な時代を経たからこそ、今があるということを忘れてはならないと思っています」
創業者である祖父の想いを胸に、田辺さんは未来を見据えています。

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