更新日:2023年1月10日

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シンビジウムで暮らしに彩りを

大竹敏彦氏

シンビジウム

日本屈指の長い日照時間を誇り、夏期冷涼な高冷地を有する山梨県では、東京などの大消費地に近いという立地条件を活かし、洋蘭やシクラメンなどの鉢花やバラなどの切り花の栽培が行われています。
県北東部に位置する甲州市は、ぶどうやももなどの果樹栽培が盛んな地域で、市の南部にある勝沼町は、日本におけるぶどう栽培やワイン造りの発祥の地といわれています。
県内でも有数のぶどう産地である勝沼町で、大竹さんは、自ら考え、自ら学び、洋蘭の一種であるシンビジウム栽培を農業経営に取り入れました。大竹さんは、2021年に山梨県花き品評会で農林水産大臣賞を受賞。シンビジウム栽培にかける想いを伺いました。

アーチ仕立てで華やかな姿に

アーチ仕立て

秋も終わりに近づく11月中旬の小春日和。赤や黄色の葉でパッチワークのように広がるぶどう畑の中にある、大竹さんの農園を訪れました。2月まで出荷作業が続くという大きなビニールハウスの中には、色とりどりのシンビジウムがずらりと並び、ほのかな香りを漂わせていました。
どのシンビジウムもきれいな弧を描く茎に沿って、花ひとつひとつが誇らしげに生き生きとした表情を見せています。花茎(注1)をアーチ状に仕立てる技術が、大竹さんの栽培の特徴のひとつ。「シンビジウムは普通に育てると、直立した茎に花を咲かせるので、人が見る側の反対を向いてしまう花がでてしまう。アーチ仕立てにすることで、すべての花を同じ方に向けることができ、より華やかな姿になる」と嬉しそうに話す大竹さん。
アーチ仕立て栽培は、花茎を曲げる作業のタイミングが重要。時期が早いと花茎が折れやすく、遅いと花の向きが揃わないそうです。「曲げる技術の習得には3年かかる。折れることを恐れず、思い切りよく曲げる方が、結果的にアーチがきれいに仕上がる」と奥深さを教えてくれました。

(注1)花茎(かけい):花をつける茎のこと。

栽培技術や消費動向を独自に模索

大竹さんとシンビジウムの苗

1978年4月、大学を卒業した大竹さんは、デラウェアなどのぶどうを栽培するご両親の元に就農しました。その後、果物の価格低迷に悩まされた時期があり、ぶどうの作業と時期が重ならない農作物を経営に取り入れようと考えた大竹さん。就農から10年経った頃に、以前から好きだったシンビジウムに取り組むことを決意し、両親を説得。デラウェアを栽培していたビニールハウス内で、シンビジウム栽培を始めたそうです。大竹さんは、甲州市内の洋蘭園を訪れて栽培技術などを学ぶだけでなく、東京の市場を見学して消費動向などの情報収集をするなど、知識や経験を重ねていきました。
栽培を始めた当初は、シンビジウムを切り花として出荷していましたが、鉢花としての栽培の方が自分に合っていると感じた大竹さんは、鉢花での出荷に切り替え、アーチ仕立てもいち早く取り入れました。
現在、20種類ほどのシンビジウムを、年間約10,000鉢出荷している大竹さんは「シンビジウムは苗から出荷までに3年かかるので、仕入れた苗が3年後の消費者のニーズに合うかの確信は持てない。それでも、花は暮らしを彩るものだから、少しでもいい姿に作り上げたい」と熱い想いを語ってくれました。

365日、まじめにコツコツ

ワインシャワー

「花茎が3~5本あるシンビジウムが一番美しく見える」と思う大竹さん。本数が多すぎると花茎の長さが短くなり、少ないと華やかさが足りなくなるそうです。必要な本数の花茎を持ったシンビジウムを安定して出荷するために、苗のうちからしっかりと根を張らせて、花茎のもととなる花芽をたくさん出させます。そして、出荷する前年の秋、花芽の良し悪しを見極めて、良い花芽だけを残す作業を丁寧に行います。
花だけでなく、葉も商品。葉に虫害や黄ばみがあれば、価値は下がってしまいます。「ハウスには365日足を運ぶ。植物は話すことはもちろん、自分で動くこともできない。それぞれの鉢の状態をしっかり観察することが大事」と真剣な眼差し。「人間が暑いと感じるときは、シンビジウムも暑いと感じている。適切な温度を維持するこまめな管理も重要な作業のひとつ」と教えてくれました。
「まじめにコツコツ」がモットーと話す大竹さんが作り上げたシンビジウムは、令和3年度山梨県花き品評会で農林水産大臣賞を受賞しました。受賞したシンビジウムの品種は、「ワインシャワー」という甲州市の洋蘭園が開発した品種。赤ワインのような深い色合いが特徴で、夜温が高い地域では出せない色味だといいます。

努力と自信が照らす未来

大竹氏

シンビジウム栽培で大変な作業のひとつに「山上げ」があります。夏の盛りから秋のお彼岸頃にかけて、標高900m程度の高冷地にシンビジウムを移動させます。これは、夏の暑さを避けて花芽を守り、秋は早めに寒さを感じさせることで開花を促進させるために必要な作業です。
「たくさんの鉢を移動させる作業は重労働。だけど、好きだから続けていける」シンビジウム栽培は新規就農が難しいといわれる中、息子さんが、大学卒業後に大阪の花市場と栃木の胡蝶蘭園での勤務を経て、2012年に大竹さんの元に就農。「親子でする農業はいかがですか」という問いかけに、大竹さんは嬉しそうに微笑んでいました。
「シンビジウムは大小さまざまで、いろいろな色の花を咲かせるので、見る人を飽きさせない魅力がある」大竹さんは、2019年5月から山梨県花き園芸組合連合会の会長を務め、県内の花き産業を牽引する存在。まっすぐな想いでシンビジウムを作り上げる背中には、努力に裏付けされた自信が満ちています。大竹さんが作り出す美しいシンビジウムは、これからも人々の心を癒し、日常を明るく華やかに彩っていくことでしょう。

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