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ページID:85802更新日:2018年6月20日
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甲府市の遺跡(甲府城関連・曽根丘陵公園を除く)
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もう一つの水煙把手土器渦巻き文様をもつ大きな把手(とって)が立ち上がる特徴的なフォルムとなる水煙把手土器は、山梨を代表する縄文土器です。遺跡トピックス0464で「水煙把手土器(すいえんとってどき)」のひとつ山梨県指定文化財になっている安道寺遺跡出土のものを紹介し、その生い立ちの謎にせまりました。この土器の誕生は、東北地方を中心にひろがる大木8a式(だいぎはちえ~しき)土器を起源にして山梨あたりで成立したものではないかと、前回(0464)お伝えしましたが、このもととなる土器が東北地方には見当たりません。どこから山梨に来たのか?その謎にせまるつもりでした。あれから1年・・、探しましたがみつけることができませんでしたm(_._)m。水煙把手土器につながる大木式土器は、器形をみると長野方面のものとよく似ているのですが、こちらにはありませんでした。神奈川・東京方面には意外とみつかるのですが、北関東にありません。???。 そんなことをしているうちに水煙把手土器にはもうひとつ別の種類があることがわかりました。甲府市上野原遺跡の水煙把手土器にみるような大きな把手の上が渦巻きのドームになるものです。まるでスイーツのモンブランケーキのようです。今回はもう一つの水煙把手土器の生い立ちに迫っていきます。
甲府市上野原遺跡出土の水煙土器 もうひとつのドーム形の水煙把手土器甲府市上野原遺跡の水煙把手土器は、すでに遺跡トピックNo.480で紹介していますので、そちらもみてください。この土器は把手の一部が欠けていましたがほぼ完全な形でみつかりました。把手をみてみると、頂上は丸みを帯びたドーム形となっています。ひとつは渦巻き状になっていて、そのうちの土器の縁から大きくとびだして、中ががらんどうで窓がところどことあいています。模様はくにゃくにゃした粘土紐がすきまなく貼り付けられています。まるで昨日食べたモンブランケーキを思い起こしますね。
とってもおいしかったモンブランケーキ
以前紹介した水煙把手土器は丸い輪がたくさん重なる円環形の把手のものでした。これに対して上野原遺跡の水煙把手土器は、筒状のドーム形となって頂上がまるくなります。水煙把手土器は、縄文時代中期後半の「曽利式土器」という、山梨県を中心に広がる土器様式で、初期に限ってつくられたものですが、輪をかさねた円環形把手と同じようにドーム形把手も広がっていることがわかってきました。同じような例はさがしてみるといくつかあります。
ドーム形の水煙把手土器のはじまり
これは笛吹市境川町の一の沢遺跡から発見された土器です。二つの把手は小ぶりの渦巻文ドームになります。もうひとつ北杜市長坂町の酒呑場遺跡の土器にも渦巻きドームの把手がのっています。上野原遺跡の土器と比べると把手は小さく全体的にシンプルで、やや古い様相があります。こうした土器は、東北地方の大木式土器ではなく、もともとあった地元山梨の土器から発展してきたと考えられます。 地元山梨の土器の縁に渦巻き文が描かれたものがよくみられますが、この渦巻き文様が立体化するとドーム形の水煙把手に変化します。おそらく、ドーム形の水煙把手土器はこの時期に文様を立体化する流行なかで、外来の大木式土器の影響ではなく、山梨で独自に出来上がったものといえます。
ふたつの水煙把手土器こうして水煙把手土器の系譜には、東北地方の大木式土器をベースに発展した円環形の水煙把手土器と、地元の土器から発展した渦巻きドーム形の水煙把手土器という2種類があることがわかりました。これまで似た雰囲気を持っていたため、あまり区別されることがありませんでしたが、その系譜には明らかな違いがあります。広がりにも特徴があり、東北地方からひろがってくる大木式土器の系譜をくむ水煙把手土器は長野、山梨から西関東と比較的広い範囲にみられますが、渦巻きドーム形の水煙把手土器は地元の土器に系譜をもつためやはり八ヶ岳山麓を中心にした長野、山梨方面が多いのです。いっしょに見つかることもありますが、それぞれ土器に由来する社会的な背景の違いが現れています。 新潟の火炎土器には、鶏頭冠把手をもつ火焔型土器と波状口縁の王冠型土器の二種類があるように、水煙把手土器にも大木式系円環形と地元系渦巻きドーム形の二種類があります。火炎土器と水煙土器は、同じ時期に新潟と山梨でつくられたものです。見た感じは似ていないようで似ているところもあります。いつかこの二つの土器を比べてみたいと思います。実は意外にも同じ秘密が火炎土器と水煙土器にあるのです。お楽しみに。(続く)
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