トップ > 県政情報・統計 > 知事 > 開の国やまなし こんにちは。知事の長崎です。 > 施政方針 > 令和8年2月県議会知事説明要旨
ページID:124632更新日:2026年2月17日
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県民の皆様。
今、私たちの食卓を囲む空気はどうでしょうか。
買い物に行くたびに感じる物価上昇への不安。
若者が街を去っていく寂しさ。
そして、かつての成功体験が通用しなくなったという、言葉にしがたい閉塞感。
私たちが直面しているのは、単なる景気の波ではありません。
社会の前提そのものが変わる、一世代に一度の「構造変動の時代」であります。
古い地図は、もはや役に立ちません。
しかし、地図がないことを嘆いている時間は、もう終わりました。
今求められているのは、理念でも対症療法でもありません。
現場で実装され、検証され、成果と教訓を伴う具体的な「解」であります。
人口が減少する時代に、地域は衰退するしかないのか。
賃金が伸び悩む時代に、豊かさを実感することはできないのか。
地方は、国家の政策を待つ存在であり続けるのか。
私は、そうは考えません。
むしろ地方こそが、構造変動の最前線に立つ「実装の現場」であります。
だからこそ地方には、現実の中から「解」を示す責任がある。
山梨県は、その責任から逃げません。
なぜなら、この地は歴史の転換点において、常に自ら筆を執ってきた土地だからであります。
幕末から明治という国家の激動期、甲州の地から若尾逸平という一人の人物が立ち上がりました。
彼は中央の決定を待たず、地方の制約を言い訳にせず、自ら資本を興し、産業を起こし、日本の経済構造そのものに挑みました。
構造が揺らぐ時代に、答えを外に求めるのではなく、自ら創り出す。
それが、甲州人の流儀であります。
今再び、社会の構造が大きく動いている。
だからこそ山梨県は、歴史と同じ姿勢で、この時代に向き合います。
これまで本県は、水素の社会実装、世界遺産富士山の持続可能な管理、所得向上に向けた構造改革、人口減少への体系的対策、防災・減災の高度化など、理念にとどまらず、実装に踏み込み、検証可能なモデルを提示して参りました。
挑戦には、当然ながら様々な声があります。
富士トラムをはじめとする新たな取り組みにも、賛否があることは承知しております。
現状を維持することは一見、楽に見えるかもしれません。
けれども、そこで立ち止まり停滞することは、未来の子どもたちから選択肢を奪うことにほかなりません。
私への批判は甘んじて受けます。
しかし、私は山梨の未来への責任を放棄することは、断じて致しません。
私たちが進めているのは、単なる施策の積み重ねではありません。
それは、世界遺産を守り抜くという「覚悟の実装」であり、実質所得を引き上げ、県民一人ひとりの誇りを取り戻す闘いであります。
平坦な道ではありません。
しかし、私は歩みを止めません。
その先にある景色を、私は県民の皆様と共に見たいと念ずるからです。
新年度予算は、その覚悟を具体化するものであります。
単発の事業の集合ではなく、構造変動の時代において山梨が先陣を切り、「解」を示し続けるための戦略的投資であります。
本県は、受け身で時代に適応する県ではありません。
変化を読み、構造を見極め、必要な転換を自ら選び取る県であります。
そしてこの挑戦は、山梨のためだけではありません。
人口減少社会をどう生き抜くのか。
実質所得をどう引き上げるのか。
地方の自立をどう実現するのか。
これは、日本全体が直面する問いであります。
山梨県は、その問いに地方の現場から答えを書き込む。
日本の未来に資する「実装モデル」を示す。
その決意の下、以下、新年度において重点的に取り組むべき構造課題と、その具体的な「解」について、順次申し述べます。
先ず、世界的課題に対する本県の取り組みについて申し上げます。
エネルギー転換は、もはや研究や実証の段階にとどまるものではありません。
社会の中で、いかに実装し、持続可能な仕組みとして定着させるかが問われる時代に入っています。
世界各国が次の段階へと進む今、求められているのは理論や構想ではありません。
実装の現場で積み上げられた具体的な経験と教訓、すなわち「実装知」であります。
本県は、グリーン水素を実社会で使われ続けるエネルギーとして確立することを目標に掲げ、P2Gシステムの導入などを通じて、水素関連技術の実装段階に踏み込んだ、日本で唯一の地方自治体であります。
私たちは単に技術を導入したのではありません。
制度設計、運用体制の構築、コスト管理、リスク対応に至るまで、社会実装に不可欠な要素を一つひとつ検証し、積み重ねて参りました。
その取り組みは海外からも高い関心を集め、国際水素サミットの開催への強い賛同へとつながっております。
(国際水素サミットの開催とその意義)
新年度は、この蓄積を世界に開きます。
世界各国の自治体、研究機関、企業、政策関係者が山梨に集い、実装の現場に根差した知見を共有し、次の行動へとつなげる。
そのための国際水素サミットを開催いたします。
なぜ山梨が、その舞台となり得るのか。
本県は資源大国ではありません。
特定のエネルギー利害に依拠する立場にもありません。
国家間の競争の当事者でもありません。
だからこそ、立場を超えた対話が可能であります。
技術の優劣ではなく、実装の知恵を共有する場を担うことができる。
山梨県は、小さな自治体であります。
しかし、小さいからこそ、特定の国や企業に偏らない中立性と、長期にわたる継続性を備えた公共空間となり得るのであります。
(中立性と継続性を備えた国際的公共空間の構築・提供)
更に、サミットを一過性のイベントに終わらせることは致しません。
集積される実装知と、本県が有する水素実装フィールドを結び付け、水素関連産業の集積を進めるとともに、世界から人材が集い、現場で学び、挑戦できる高度人材育成の拠点を形成して参ります。
社会実装を支える産業基盤を、山梨に築き上げます。
これは単なる産業政策ではありません。
エネルギー構造転換という世界的課題に対し、実装を先行した者の「使命」として、中立性と継続性を備えた国際的公共空間を構築・提供し、水素社会の実現を現場から牽引していく。
これが、山梨県が世界に示す具体的な道筋であります。
次に、世界遺産富士山の持続可能な管理についてであります。
富士山は、信仰の対象であり芸術の源泉であると同時に、顕著な普遍的価値を有する世界遺産です。
しかしその一方で、開山期間中には世界的にも例を見ない規模の登山者を迎え、五合目には年間数百万人が訪れるなど、極めて高い利用圧力の下に置かれています。
この保全と利活用の両立は、日本固有の課題ではありません。
世界の自然・文化遺産が共通して抱える普遍的な課題であります。
だからこそ本県は、世界遺産富士山を預かる立場として、この困難な課題から目を背けることなく、その責任を引き受けるとともに、持続可能な管理の在り方を具体的に示して参りました。
(登山規制の導入と安全対策の充実)
先ず、登山規制の導入と安全対策の充実であります。
オーバーツーリズムや弾丸登山の深刻化を受け、本県では登山規制の導入や下山道へのシェルター設置など、安全対策の強化を進めて参りました。
登山者のコントロールには一定の成果が得られています。
しかしながら、富士山全体の価値向上という観点から見れば、いまだ道半ばであります。
引き続き、実態を検証しながら改善を積み重ねて参ります。
更に、管理の質を一段高めるため、動線管理の強化に取り組んでおります。
富士トラムは、観光交通の利便性向上を目的としたものではありません。
世界遺産の玄関口において、来訪者の動線を適切に管理し、安全性と体験の質を両立させるための管理インフラであります。
現在、スバルラインへの早期導入を見据え、基本計画の策定に不可欠な調査・検討を進めております。
来年度は、特定の方式や国に過度に依存することなく、国内及び欧州製車両についてもモデル車両に必要な要素技術の開発を働きかけて参ります。
併せて、車両の選定方針や安全対策、運行管理システムの要件について追加の調査・検討を行い、基本計画の更なる充実を図って参ります。
なお、モデル車両のデモ走行については、社会情勢や技術的な検討状況を総合的に勘案し、当面延期いたします。
その検討が十分に成熟した段階で、改めて実施に向けた検討を進めて参ります。
加えて、富士トラムの早期実現に向け、事業会社の設立を加速して参ります。
当該事業会社については、トラムの運行にとどまらず、五合目までの電力インフラ整備を含め、世界遺産の玄関口における安全で持続可能な運営を一体的に担う主体として、その役割と責任の範囲を整理して参ります。
(山全体を支える基盤整備)
更に、交通のみならず、山全体を支える基盤整備も不可欠であります。
富士山の持続可能な管理には、電気・通信インフラの整備が重要であります。
富士トラムの導入と併せて、富士スバルラインにおける電気・通信インフラの整備についても、世界遺産富士山を預かる立場として不可欠な取り組みとして位置付け、具体的な実現方策について検討を進めて参ります。
(五合目の再整備と文化継承)
そして、五合目の再整備と文化継承であります。
五合目を、単なる通過点ではなく、信仰の場にふさわしい上質な体験空間とするための再整備の検討を進めて参ります。
併せて、いにしえの登山道や富士講・御師文化に象徴される信仰と暮らしの歴史についても調査・発信を進め、富士山の普遍的価値を立体的に継承して参ります。
このように、人数の管理、交通の制御、基盤インフラの整備、そして文化の継承までを一体として進めることは、単に富士山のためだけではありません。
世界が直面する遺産管理の課題に対し、現場から具体的なモデルを示す取り組みであります。
本県は、これら具体的な責任を引き受け、持続可能な管理モデルを着実に積み重ねながら、富士山の価値を未来世代へ確実に引き継ぐとともに、その知見を世界へ発信して参ります。
次に、「面的国際連携」という新しい地方外交についてであります。
国際秩序が流動化し、経済安全保障やサプライチェーンの再構築が進む中、地方行政においても世界を見据え、世界基準で行動することが求められる時代に入っています。
しかしながら、国際交流における一対一の関係は、相手国・地域との資源や体制の違いにより、継続性や成果に限界が生じ得ます。
そこで本県は、発想を転換いたしました。
複数の自治体が連携し、面として国外と向き合う「面的な国際連携」、すなわち「ゲートウェイ構想」であります。
(富士五湖自然首都圏構想)
先ず、富士五湖自然首都圏構想であります。
昨年10月、富士五湖自然首都圏フォーラムが中心となり、カリフォルニア州から14団体・25名の市長・市議らの訪問団を受け入れ、富士カリフォルニア・リーダーズサミットを開催いたしました。
このサミットは単なる表敬訪問ではありません。
県がゲートウェイとなり、カリフォルニア州の複数都市のトップと、山梨県内の複数自治体のトップが一堂に会し、地域対地域として面で向き合う対話の場を設計したものであります。
自治体同士が個別に交流するのではなく、課題や可能性を共有し、連携の方向性を確認する。
その結果、カリフォルニア州内の多く自治体から、本県のグリーン水素事業や医療機器産業に強い関心が示されました。
来年度中のMOU締結に向け、協議を加速させて参ります。
(インド各州とのネットワーク形成)
更に、インド各州とのネットワーク形成であります。
本県はかねてより、人口2.4億人を擁し、著しい経済発展を遂げているウッタル・プラデーシュ州との交流を推進して参りました。
そして昨日、ナグマ・モハメド・マリック駐日インド大使の御臨席の下、本県の主導により、愛知県や静岡県、長野県など9県が連携する「日印友好交流促進知事ネットワーク」を設立いたしました。
このネットワークにより、各自治体が交流を持つインドのそれぞれの州へのゲートウェイとなり、一対一を超えた広域的で効果的な交流が可能となります。
これはまさに、本県が推進してきた面的な国際連携の具現化であります。
こうした取り組みを重ねる中、私どもが待ち望んで参りましたウッタル・プラデーシュ州のヨギ首相の来県が、来る今月26日に実現する見込みとなりました。
初めての来日に際し本県を訪れていただくことは、戦略的に関係を構築してきた成果であり、両者の関係を一段と深化させる重要な契機となります。
県議会の会期中ではありますが、議員各位の御理解・御協力をいただきながら、県民の皆様や県内経済界とともに、県を挙げてお迎えして参ります。
(地方外交の深化)
一対一を超え、複数自治体が連携して国際関係を構築する。
これは、国際秩序が変動する時代における地方の新しい在り方であります。
地方は、国家外交の補完にとどまりません。
主体的に世界と向き合うグローバルプレーヤーであります。
今後も、富士五湖自然首都圏フォーラムやゲートウェイ構想を中心に面的な国際連携を深化させ、地方から世界に向けて具体的な成果を積み上げて参ります。
これもまた、構造変動への山梨県としての具体的な提案であります。
世界的課題に続き、次に申し上げるのは、日本全体が直面する国家的構造課題に対する本県の挑戦であります。
我が国では、物価上昇が賃金の伸びを恒常的に上回り、働いても豊かさを実感しにくい構造が固定化しつつあります。
これは日本社会全体が直面する構造的課題であり、本県は、この課題に正面から向き合い、国全体の課題解決を牽引して参ります。
本県経済でも、エネルギーや原材料価格の高止まりに人手不足による人件費上昇が重なり、事業者の負担は厳しさを増しています。
賃金は増加傾向にあるものの物価上昇を十分に上回る水準には至らず、特に低所得世帯を中心に県民生活への圧迫が続いています。
昨年12月議会では、国の経済対策と連動した緊急支援策について御議決をいただきましたが、これらは構造的な課題の解決そのものへの「つなぎ」であります。
今正面から向き合うべき最重要課題は、「県民所得を、いかに着実かつ持続的に引き上げるか」という一点に尽きます。
物価上昇を上回る持続的な所得向上を実現するため、「賃金水準の引き上げ」、「生産性の向上」、「労働参加率の向上」、この三つを構造的なレバーと位置付け、一体的に推進して参ります。
89億円余の予算は、一時的な生活防衛ではなく、所得構造の転換を加速させるための集中投資であります。
(賃金水準の引き上げ)
はじめに、第一のレバー、「賃金水準の引き上げ」であります。
物価上昇が長期化する中、県民の暮らしに安心を取り戻すには賃金水準そのものの底上げが不可欠です。
その第一歩が最低賃金の引き上げであります。
最低賃金は賃金体系全体に波及する「最初の歯車」であり、若い世代が将来に展望を持ち、結婚や子育てへ踏み出せる環境を整える上でも極めて重要です。
大幅な引き上げに踏み切った地域では、働き手の定着や人材確保など、前向きな効果も確認されており、本県も山梨労働局と連携し、着実な引き上げに取り組んで参ります。
もっとも、最低賃金の引き上げだけで持続的な賃上げは実現できません。
企業の収益力を高め、その成果が賃金として分配される仕組みを社会全体に根付かせることが不可欠です。
「豊かさ共創スリーアップ」は、まさにそのための取り組みであります。
スキルアップが収益アップにつながり、その成果が賃金アップとして還元される。
この流れを企業と働き手、行政が一体で実行する社会運動です。
現在、1,000社を超える企業に認証企業としてこのスリーアップ運動に御参加いただいておりますが、真に重要なのは「頑張れば必ず報われる」という実感を現場に根付かせることであります。
認証企業を中心に、生産性向上や人材育成に直結する支援を重点的に講じ、賃上げが企業の成長とともに持続する仕組みとして定着するよう後押しして参ります。
(生産性の向上)
次に、第二のレバー、「生産性の向上」であります。
賃金を持続的に引き上げるには、企業が賃上げ原資を安定的に生み出す力が前提であり、その基盤が生産性の向上であります。
設備面では、既存設備の改修こそが生産性に直結するとの声を踏まえ、2月補正予算で新規導入・更新に加え改修も補助対象に含め、32億5,000万円余を計上いたしました。
小規模事業者の申請負担に対しては、行政書士などによる代行を活用できる新たな制度を創設し、真に必要な事業者に補助金が届く環境を整えます。
また、DXについても、課題整理から導入まで一体的に支える伴走型支援を引き続き展開して参ります。
生産性の向上は、設備だけでは達成できません。
それを使いこなし価値を生むのは「人」であります。
やまなしキャリアアップ・ユニバーシティ事業では、業種特化型・階層別の専門講座の新設、産業技術短期大学校と連携したオーダーメイド型訓練、非正規雇用労働者等向けの経理人材育成・就労支援を実施し、学びが現場の成果に直結する仕組みを強化いたします。
女性の活躍推進についても、企業案件を通じた実務経験と報酬の機会を導入し、非正規雇用の女性などが、より高付加価値の就労へ移行できる即戦力マッチングを強化して参ります。
医療・介護分野では、テクノロジーとデータで業務改革を主導する「アドバンスト・エッセンシャルワーカー」の育成に着手し、業務フローの最適化とデータに基づくケアの体制を構築して参ります。
(労働参加率の向上)
最後に、第三のレバー、「労働参加率の向上」であります。
一人ひとりの賃金を高めると同時に、働く人の裾野を広げ、地域全体の生産力と家計所得の総量を増やすことが欠かせません。
育児や介護、健康上の理由から就労機会を得られていない方々が力を発揮できる環境を整えること、これは福祉にとどまらず、県全体の稼ぐ力を維持・拡大する経済戦略の中核であります。
介護離職の防止については、セミナーやアドバイザー派遣を通じ、職場全体で仕事と介護の両立を支える意識改革を促すとともに、両立の実現に向けた環境整備やビジネスケアラーへの個別相談支援などを担うワークサポートケアマネジャーの養成支援に加え、新たに企業への派遣を開始し現場での活用を広げて参ります。
障害を持つ方々などの就労支援については、昨年12月に就労支援コーディネーターを2名配置し、受け入れ事業所の開拓を開始いたしました。
来年度からはハローワークや障害福祉サービス事業所などと連携し、新たな就労支援スキームを構築するとともに、ポータルサイトやロゴマークを通じ障害者就労の価値を広く届けて参ります。
併せて、引き続き工賃のアップに強力に取り組んで参ります。
また、安定した住まいは就労の前提条件であり、本年4月、甲州市に県内初の居住支援に関する官民連携協議会が設立される予定です。
これを起点に住宅確保の支援体制を強化し、就労への一歩を踏み出しやすい環境を整えて参ります。
これらは個別施策の積み重ねではなく、実質所得を押し上げるための一体的な構造改革であります。
努力が着実に報われ、働くことで暮らしの向上を実感できる社会基盤を築く。
本県は、制度と実践の積み重ねにより、その成果を具体化し、日本全体の構造的課題の解決を先導して参ります。
所得構造を動かすと同時に、産業構造そのものを変えなければなりません。
構造変動の時代においては、既存の産業構造の維持だけでは持続的成長は実現できないからです。
本県は、基幹産業それぞれの構造転換を通じて、産業構造に安定的な成長力を組み込んで参ります。
(国内最大の果樹産地としての供給高度化)
はじめに果樹農業についてです。
本県は、桃・ブドウの生産量において全国最大の産地であり、我が国の果樹農業を名実ともに支えて参りました。
国内最大の産地であるということは、日本の果樹農業全体の持続性と競争力の向上を牽引すべきリーダーシップを担う立場にあるということであります。
国内市場の縮小、産地間競争の激化、担い手の高齢化といった構造的課題が顕在化する中、本県が中核となり、生産・流通・販売を三位一体で高度化する構造転換を牽引していくことが不可欠です。
農業者の所得向上を実現するためには、高い品質と安定した供給力を生かし、日本の果実輸出全体を下支えしていく必要があります。
このため、成長が見込まれる東南アジア地域を中心に、戦略的かつ一体的なプロモーションを展開するとともに、新たな輸出市場の拡大に向けた政府への働きかけなどに注力して参ります。
併せて、農業法人の下での実践的な研修とほ場の引き継ぎ支援、生産基盤の再編整備や優良品種への改植を一体的に進め、供給力の維持・強化を図って参ります。
更に、消費者に近い立場で果実の魅力を伝える「桃ソムリエ」制度を創設し、産地や生産者の努力が正当に報われる市場環境の整備に取り組んで参ります。
(ジャパンワインの価値創造拠点化)
また、本県は、ジャパンワイン発祥の地であり、全国最大の生産地として、日本のワイン産業を量・質の両面から支えて参りました。
近年、ジャパンワインは地域の風土や生産者の哲学を映し出す産業として国際的な評価の対象となりつつあります。
本県は、生産にとどまらず、価値の発信、評価の形成、文化としての継承までを見据え、ジャパンワイン全体の発展を推し進めていくべき責任を担っています。
このため、ジャパンワインの歩みやテロワールの多様性、醸造技術の進化、生産者の思想を体系的に伝え、国内外の造り手や評価者、流通関係者が集う中核的な拠点、いわば「ワインミュージアム」とも言える施設を県内に整備する方向で検討を進めて参ります。
こうした役割に資源を集中するため、首都圏の「カーブドワイン県やまなし」については、本年3月下旬をもってその役割を終えることと致します。
(機械電子産業の成長分野展開)
本県の主力産業である機械電子産業は、生産や売り上げ、利益の変動が大きいという構造的特性を有しています。
県内企業が有する高度な技術力を、安定的な市場拡大が見込まれる分野へ展開し、産業全体に持続的な成長力をビルトインさせることが本県の果たすべき役割であります。
医療機器産業については、高齢化の進展に伴い医療費支出が増大する中、医療の質を確保しつつ社会保障制度の持続可能性を支えるという課題に、産業の側から応えて参ります。
すなわち、本県は、県内企業の精密加工や電子制御の技術力を生かし医療機器製造に参入することにより、増大する医療費支出の受け皿となることで、経済成長につなげる取り組みを進めて参りました。
これは、医療と経済の両立という我が国全体の課題に対し、現場から実装モデルを提示する取り組みでもあります。
静岡県と連携して推進する「ふじのくに先端医療総合特区」の区域拡大を内閣府に申請したところであり、メディカル・デバイス・コリドー構想の下、県全体が医療機器産業版のTSMC社のような存在となる「全県ファウンドリー化」を一層進めて参ります。
また、航空・宇宙・防衛産業については、長期的かつ安定的な需要が見込まれる成長分野として、県内企業がサプライチェーンの一翼を担う体制の構築を進めて参ります。
展示商談会への出展や国際認証、高度な特殊技術の取得支援を通じて、県内企業の取引機会の拡大を図って参ります。
(水素関連産業の集積強化)
水素社会の実装については先に述べた通りでありますが、産業政策の観点からは、水素関連産業を本県の成長を牽引する中核産業として育成することが重要です。
県内の水素関連企業、研究機関、大学などと連携した産学官コンソーシアムを構築し、実装知の集積と高度人材の育成を一体的に進めて参ります。
水素・燃料電池分野においては、カナデビアによる新工場建設の決定を契機に、県内企業の参入意欲が飛躍的に高まっています。
この機運を確かな成長につなげるため、関西圏の展示会への出展など、協業関係の構築を積極的に進め、付加価値の高い産業と雇用を県内に創出し、県民所得の着実な向上につなげて参ります。
次に、我が国が直面する最大の構造課題、人口減少について申し上げます。
人口減少は、社会インフラ、経済の活力、社会保障の持続性を根底から揺るがす長期的な構造変動であります。
本県は、この現実を直視し、人口減少下においても生活の質を高め続ける地域モデルを設計して参ります。
(少子化対策の体系化)
本県は、令和5年6月に「人口減少危機突破宣言」を発し、専従組織の設置、人口動態の精緻な分析、専門家との体系的連携を制度として構築して参りました。
内閣官房への人口戦略本部の創設要請が実を結び、国において新設されたことは、山梨が国を前へ動かしてきた証左であります。
本県の政策の特徴は、少子化の本質に切り込む構造的アプローチにあります。
子育て支援を全国屈指の水準に整備しつつ、根源は若者の将来展望、とりわけ「所得が伸びる確かな見通し」の有無にあると捉え、「豊かさ共創スリーアップ」として制度化して参りました。
更に住環境との相関に着目し、市町村と連携した公営住宅などでの実証準備を進めるとともに、未婚化・晩婚化への対応として二十代の若者への結婚相談所入会支援や専門家による個別相談にも取り組みます。
所得・住環境・結婚支援を立体的に結びつけたこの政策体系は、全国に例を見ないものであります。
かけがえのない「ふるさと山梨」を次の世代へ確実に引き継ぐため、県がその責任を引き受け、県民一丸で人口減少危機を突破して参ります。
(スマートシュリンクによる持続可能な地域構造の構築)
他方において、人口減少を単なる衰退として受け身で過ごしてはなりません。
本県が謳う「スマートシュリンク」は、規模拡大を追い求めた時代から決別し、限られたリソースを賢く集約することで住民一人ひとりの生活の質を最大化する戦略的転換であります。
第一の柱は、交通ネットワークの再構築です。
公共交通は、拠点同士を結び集約の効果を地域全体に届ける「血管」であり、これをなくしての集約は孤立を生むだけであります。
全国の地方鉄道が鉄路維持費の重い負担に直面する中、その費用を要しない次世代交通システム「富士トラム」を持続可能な交通モデルとして提示して参ります。
同時に、拠点から生活圏の隅々へ移動をつなぐ「毛細血管」の整備も不可欠です。
来年度からは、県内二次交通の全体設計を描いた上で「公共ライドシェア」への補助制度を創設するとともに、「共同配車システム」や「自動運転タクシー」など市町村や交通事業者主体の実証への支援を強化して参ります。
第二の柱は、市町村の機能強化と地域個性の発揮です。
限られた行政資源で住民サービスの質を維持するには、市町村の役割を見直す必要があります。
県が専門的事務や定型業務を引き受ける「事務の共同化」を加速し、市町村が生み出したリソースを地域の歴史・文化・風土を磨く営みに充てられるようにする。
既に峡南地域や東部地域では、県主導の職員共同採用試験や共同処理に向けた合意形成が始まっております。
交通の再構築と新たな行政体制、この両輪により「スマートシュリンク」の先にある持続可能な地域構造を築いて参ります。
(共生社会の推進)
当分の間、人口減少が避けられない中、地域の機能を維持し経済と暮らしの基盤を支え続けるには、年齢や性別、障害の有無、国籍にかかわらず、あらゆる人材が担い手として力を発揮できる社会が不可欠です。
本県が目指すのは、多様な人材が参画し、その活躍が正当に評価され、信頼と敬意をもって受け止められる関係が自然に循環する社会であります。
中でも多文化共生の在り方は、人材確保と地域の安心・秩序の両立という二つの側面を持つ重要な課題です。
本県は、地域や企業の自然な受け容れ能力を踏まえた進度管理を重視しながら、日本人と外国人がともに地域を支え安心と誇りを共有できる社会づくりを進めて参ります。
来年度は企業と外国人材の適正なマッチングを進め、日本語教育については本人のみならず帯同家族も受講できるよう支援を拡充します。
併せて研修会や交流を通じ県民の理解を深め、摩擦や孤立を防ぎながら地域の安心を確保して参ります。
更に、共生の基盤を将来世代へつなぐため、幼少期から多文化に触れ、互いの違いを自然に受け止める力を育む国際保育を推進します。
外国にルーツを持つ子どもが地域に溶け込みながら成長すると同時に、日本人の子どもや保護者にとっても多様な文化を日常で学ぶ機会となる、共生社会づくりへの実践的な投資であります。
本県は、日本人材の育成を大前提としつつ外国人の受け容れと包摂を丁寧に進め、人口減少下でも安定と活力が両立する持続可能な共生社会モデルを築いて参ります。
防災・減災は、県民の命を守る行政の根幹であります。
本県は、火山防災の高度化、広域避難モデルの構築、森林火災対応、社会資本の強靱化を通じて、危機管理の水準を引き上げて参ります。
(火山防災の高度化)
本県はこれまで、「火山防災強化推進都道県連盟」の主導や国会議員連盟との連携による活火山法改正の実現など、我が国の火山防災体制の強化を最前線でリードして参りました。
今後も科学的知見の進化と社会実装の両輪で、対策の高度化を推し進めて参ります。
中でも、火山に関する専門人材の育成はオールジャパンの喫緊の課題です。
大学との連携による高度専門人材の育成に加え、民間参入を促すピッチコンテストにより技術革新を加速します。
また、富士山科学研究所の噴火前兆把握など、新規性の高い研究成果を具体的な対策へ結実させるとともに、「富士山降灰対策ガイドライン」を策定し、実効性ある避難体制を構築いたします。
(広域避難モデルの構築)
大規模災害時の広域対応においても先導的役割を果たして参ります。
富士山噴火や南海トラフ地震の際には、多くの外国人観光客が立ち往生する恐れがありますが、帰国支援の広域的枠組みは全国的にも未整備でした。
令和6年10月、本県から中央日本四県及び関係省庁に呼びかけ、研究会を立ち上げ、令和7年9月に避難誘導から帰国支援までの手順を整理した最終報告書を取りまとめました。
引き続き本県が先頭に立ち、国による制度設計を強く求めるとともに支援体制の具体化を図って参ります。
併せて、避難の「質」を高める取り組みを進めて参ります。
噴火時に治療を継続しながら重症患者を搬送する事態も想定し、影響の大きい医療機関を対象に安全かつ迅速な避難の仕組みを検討して参ります。
避難生活環境についても、来年度はモデル地域で避難所トイレの安全かつ衛生的な設置・管理の仕組みを構築し、避難生活の質を底上げいたします。
富士スバルラインの通信インフラ整備も防災上極めて重要です。
活火山であり気象条件も厳しい富士山では、五合目や登下山道の通信環境が脆弱な状況が続いています。
富士トラム導入に伴う通信インフラ整備により、気象・火山活動情報を迅速確実に届け、山中の安全性を高めて参ります。
(林野火災への広域連携体制の構築)
気候変動を背景に森林火災の頻発化・広域化が進む中、一消防本部の対応力には限界があり、広域連携体制の構築が急務です。
上野原市扇山の林野火災は、県内10消防本部が総力を挙げ、降雨に頼らず鎮圧した好事例でありました。
県はこの経験を生かし、各消防本部と連携して初動対応や応援要請の適時性、資機材配備を検証して参ります。
併せて、延焼の拡大を未然に防ぐため、県主導で早期応援要請を行う仕組みの構築を検討し、応援側の費用負担の在り方も整理いたします。
(社会資本の強靱化)
災害対応の根幹は人命の確保であり、平時の社会資本整備と発災直後の即応力を切れ目なく確保することが不可欠です。
社会資本整備については、第五次山梨県社会資本整備重点計画の骨子案に基づき、令和8年度から5年間で総額5,000億円規模の公共投資を計画的に進めます。
国の「第一次国土強靱化実施中期計画」の予算も活用し、新山梨環状道路東部区間の整備、インフラ老朽化対策、流域治水を加速いたします。
2月補正予算で346億円余を計上し、当初予算と合わせ1,006億円余を確保する方針の下、切れ目のない整備を進めて参ります。
また、即応力の確保について、その中核を担う消防防災ヘリコプター「あかふじ」は、情報収集、山岳遭難救助、林野火災消火、近隣都県への応援など、あらゆる場面で人の命をつないで参りました。
しかし、 現在の機体は令和4年に生産終了し、部品調達や操縦士確保が年々困難となっております。
対応力の低下は県民の命に直結する重大なリスクであり、将来にわたる確実な運航を確保するため、消防防災ヘリコプターの更新を行うことと致します。
命を守る体制を着実に強化し、危機管理の水準を引き上げて参ります。
リニア中央新幹線の開業により、本県は東京とおよそ25分で結ばれます。
しかし、リニアが開業しただけで開業効果が自動的に生まれるわけではありません。
交通ネットワークの構築、都市の魅力向上、住環境の整備を一体的に進め、リニア開業を地域全体の価値向上へと結びつけて参ります。
(二次交通の高度化)
リニア開業効果を最大限に引き出すには、先ず何よりも山梨県駅の利便性を高め、利用者数と停車本数の好循環を生むことが極めて重要です。
このため、駅から富士山をはじめとする県内各地へ人の流れを確実につなぐ交通ネットワークを構築し、開業効果を全域に波及させて参ります。
その中核が富士トラムネットワークであります。
富士トラムをリニア山梨県駅まで延伸し、富士山方面と直結させることで、山梨県駅は名実ともに富士山観光の玄関口となります。
市町村と連携した公共交通網再編研究会においては、人流データの分析を踏まえ、基幹路線候補の選定や地域内交通の充実を議論して参りました。
今後はこの成果を基に「公共交通網再編に向けた基本方針」の策定に向け、最適な移動手段の在り方や富士トラムが基幹路線を走行する場合の技術的課題を含め、調査・検討を進めて参ります。
既存交通の高度化と同時に、その限界を補う新たなモビリティの導入にも取り組みます。
空飛ぶクルマは山間部で時間距離を飛躍的に短縮でき、観光・ビジネス・災害時の移動支援など幅広い活用が期待されます。
リニアとの連動は来訪者の行動範囲を大きく広げ、県内各地への人流創出につながります。
来年度はバーティポートの候補地・施設要件の調査を行い、商用運航の早期実現に向け年内にデモフライトを実施いたします。
(緑の百年構想)
リニアにより首都圏と直結するからこそ、首都圏の延長として埋没するのではなく、山梨ならではの価値を打ち出さなければなりません。
その鍵は「緑」にあると考えています。
本県は四方を山々に囲まれ豊かな自然を有する一方、市街地は緑が乏しく、甲府市の市街地の緑被率は東京23区の平均をも下回っています。
緑豊かな環境が心身の健康と幸福度を高めることは研究で示されており、緑地の多い地域ではスタートアップ創出率が高いとの知見もあります。
緑は単なる景観ではなく、人材を惹きつけ産業と富を生む「創造のインフラ」であります。
県デザインディレクターの深澤直人氏も市街地の大胆な緑化構想を持たれており、私はその考えに深く共感いたしました。
リニア山梨県駅周辺整備を契機に、明治神宮外苑に象徴されるような緑のインフラを都市に組み込み、経済価値と生活価値を同時に高める「現代の桃源郷」を創り上げたいと考えています。
緑は一朝一夕で完成するものではなく、世代を超えて育つ「百年資産」です。
100年先を見据えた指針として「山梨緑化百年構想」の検討に着手いたします。
来年度は専門家による検討会議の設置に加え、県民シンポジウムの開催など、県民の皆様、とりわけ若い世代とともに学び、緑の未来像を描いて参ります。
(良質な住宅ストックの形成)
人口減少対策や産業振興の成果を確かなものとするには、働く世代・子育て世代が安心して暮らせる住環境が不可欠です。
本県では二つの課題が顕在化しています。
一つは山間地域の住宅不足です。
自然豊かな環境での子育てや山村留学を希望する都市部世帯から多くの相談が寄せられる一方、受け入れ住宅が不足し、建築可能な土地も限られることから、移住を断念するケースが生じています。
地元自治体と連携し、空き家を活用した住まいの整備を進めて参ります。
もう一つは企業進出などに伴う住宅需要の増加です。
県内大手企業からも子育て世代の住宅確保が人材確保の課題との指摘をいただいております。
需要が増加する地域で良質な住宅ストックをいかに提供するか、地元自治体とともに検討に着手し早期の対策につなげて参ります。
リニア開業を、交通・都市環境・住まいの三面から地域全体の価値向上へと結びつけて参ります。
人づくりは全ての政策の出発点であり、山梨県100年の大計であります。
子どもたち一人ひとりが自らの未来を切り拓き、学びが次の挑戦へと循環する「教育立県・山梨」を確立して参ります。
(25人学級の完成)
その根幹が少人数教育です。
最重要公約として掲げてきた「25人学級」は、来年度、小学校6年生まで拡大し、ついに全学年で完成いたします。
児童一人ひとりに寄り添うきめ細かな指導を確実なものとするとともに、中学校段階でも小学校の成果を検証し、本県独自の持続可能な少人数教育を具体化して参ります。
(探究教育の深化と理数系人材育成)
県立高校の魅力向上と理数系人材の育成を進めて参ります。
各校の特色ある成果を「県全体の教育力」へ統合し、来年度から県内全域の生徒が集う「やまなし探究シンポジウム」を開催するとともに、産学官連携でイノベーション人材の育成を加速させます。
技術系人材の育成については、検討委員会からの提言を受け、本県では現在、「高専を超える」教育効果を持つ新機関の設置に向けた検討を加速させております。
既存の教育資源との連携やスピード感、更には運営コストといった諸課題を精査し、教育効果を最大限に引き出す最適解を導き出さねばなりません。
本県の持続的な成長を左右するこのプロジェクトについて、本年度内には、その具体的な方向性を決断して参る所存であります。
(図書館機能の強化)
AI時代に真偽を見極める「思考の土台」となるのが読書環境です。
県立図書館を「知の拠点」として再定義し、年齢や障害、国籍を問わず誰もが学びにアクセスできる環境を整えて参ります。
(次世代支援センター構想)
これら全てを貫く象徴として、「次世代支援センター(仮称)」の創設検討を本格化させます。
地元富士川町長から活用の要望をいただいている旧増穂商業高校跡地など県有施設を活用し、甲州財閥から受け継ぐ「開拓精神」を呼び覚ます場を創出する。
失敗を恐れず挑戦する「未来の山梨の担い手」が育つ聖地として参ります。
(誰ひとり取り残さない学びの保障)
人づくりは教育環境の整備にとどまりません。
経済的困難によって子どもの意欲が削がれることは、山梨の未来にとって計り知れない損失です。
困難な状況にある家庭を支え抜くことを中核に据えて参ります。
先ず、不登校対策については、前段階からの「予防的な関わり」を全庁的に強化するとともに、令和10年度の開校を目指す「夜間中学」、「学びの多様化学校」の準備を加速し、一人ひとりに応じた学び直しの機会を保障いたします。
ひとり親家庭への支援では、貧困の連鎖を断ち切るため、養育費の履行確保に向けた新たな補助制度を創設するほか、高校生世代へのオンライン学習支援を新たに実施いたします。
経済的事情が進路選択を狭めない社会を実現して参ります。
更に、学びの前提となる生活基盤の保障です。
物価高から子どもたちを守るため食料支援ネットワークを本格稼働させ、企業・団体の善意を届ける仕組みを構築するとともに、「こども食堂」の灯を絶やさず、社会全体で次世代の成長を守り抜いて参ります。
未来を担う人材への投資は、山梨の持続可能性を支える基盤であります。
100年先の山梨を支える人材を育み、激動の時代にしなやかに対応できる基盤を築く。
次世代の可能性を社会全体で支え、未来へつなぐ県政を力強く推進して参ります。
私は、本県の次代を切り拓く大きな柱として「地域への誇りの醸成」を掲げます。
私たちが進むべき未来の羅針盤は、遠く外に求めるのではなく、この山梨の土地が持つ重層的な歴史の中にこそあると確信しているからです。
(縄文の精神性)
先ず、私たちの足元に眠る深遠なるアイデンティティ、「縄文文化」の再認識について申し上げます。
先日、我が国の文化振興に寄与するため、多岐にわたる活動を行う角川文化振興財団の角川歴彦氏とお目にかかった折、縄文文化の本質は「祈り」が社会の中心に据えられた極めて平和な精神性にあるとの知見を伺い、強い感銘を受けました。
この日本列島、とりわけここ山梨の地には、1万年以上にわたり戦争や奴隷制度を持たなかった、世界史的にも極めて稀有な文明が営まれてきました。
その精神文化の結晶こそが、単なる実用の器を超えた独自の美意識を宿す、本県出土の縄文土器にほかなりません。
私は、この平和な文明を過去の遺物とせず、不透明な現代において「豊かさ共創」の本質を考える上での重要な指標として捉え直すべきだと考えます。
そのため、県立考古博物館の展示の在り方を抜本的に見直す検討を開始いたします。
1万年の平穏を支えた縄文の叡智に光を当て、私たちが目指すべき世界の姿を県民の皆様とともに見つめ直す機会を創出して参ります。
(甲州財閥の開拓精神)
この「共生の精神」という肥沃な土壌の上に、一気に花開いたのが、近代日本の礎を築いた「甲州財閥」の挑戦の歴史であります。
幕末から明治という国家の存亡をかけた激動期。
山梨の地から次々と傑物たちが中央へ打って出たのは、決して偶然ではありません。
甲州の風土は新しい日本を創り上げる「経済の志士」たちを歴史の表舞台へと送り出したのであります。
彼らが追い求めたのは、目先の利益ではありません。
「独立自尊」の旗を掲げ、「公益」という大義のために前例なき荒野を切り拓くこと。
電気を興して闇を払い、鉄道を敷いて国土をつなぎ、海を越えて世界と交易する。
誰もが不可能と尻込みする困難に、果敢に、そして涼やかに挑んでみせました。
甲州人にとって、「挑戦」とは特別なことではありません。
社会をより良くするために自らリスクを取り、前へと歩みを進める。
それは、この地に生きる者の「当たり前の作法」でありました。
(歴史と地続きの未来へ)
県民の皆様。
1万年の時を超え、私たちの足元には縄文の平和な祈りが眠っています。
かつて甲州財閥が荒野を切り拓いた、あの不屈の血が私たちの体には流れています。
私たちの水素技術が世界を救い、リニアが山梨を日本の中心へと押し上げ、そして縄文の精神が現代の孤独を癒やす。
そんな、世界が羨むような「新しい豊かさの故郷」が、もう目の前まで来ています。
歴史は、待つ者にではなく、自ら筆を執る者に微笑みます。
眠れる遺伝子を呼び覚ましましょう。
山梨の底力を見せつけようではありませんか。
その上で、私自身のことを、お話しさせてください。
本年は、2期目任期の最終年にあたります。
ここで、本日申し上げてきた施策の全体を貫く、一つの問いに立ち返りたいと思います。
この7年間、私は一つの問いと向き合い続けて参りました。
なぜ、これだけの潜在力を持ちながら、それまでの山梨は、前に進めてこれなかったのか。
たどり着いた結論は明確であります。
課題が困難だったからではない。
本質に踏み込む覚悟があったかどうか。
そこに尽きると考えております。
本質に踏み込まなければ、化石のごとく固まった停滞の構造は、そのまま温存されます。
温存された停滞の構造のもとでは、本日申し上げたような「解」は、生まれてはこない。
一つだけ、具体的な例を申し上げます。
中部横断自動車道。
山梨の未来を開く、極めて重要なインフラであります。
しかし県の負担額は、164億円と想定されていました。
164億円。
この巨額の負担に対して、かつての県政が目指していたのは、国への陳情による、僅かばかりの削減でありました。
はじめから、大きくは変えられないと諦めていた。
既存の制度の枠の中で、少しでもましな条件を引き出す。
それが当時の「現実的な対応」とされていたのであります。
私は、問いを変えました。
なぜ、この負担構造そのものを問わないのか。
計算式が間違っているなら、計算式を変えればいい。
国と直接議論し、地方交付税の算定式の改正に取り組みました。
結果、163億円の削減を実現いたしました。
164億円のうち、163億円であります。
これは、予算の話ではありません。
これは、覚悟の話であります。
本質に踏み込むか、踏み込まないか。
その差が、163億円だったのであります。
本日申し上げた水素の社会実装も、富士山の持続可能な管理も、所得構造の改革も、全て同じであります。
既存の制度の枠を所与とせず、構造そのものに踏み込む。
本県が示してきた「解」は、全てこの覚悟から生まれてきたものであります。
しかし、構造に踏み込めば、必ず抵抗が生まれます。
県有地の問題が、まさにそうでありました。
全県民の財産である県有地が、市場価格を大幅に下回る条件のまま、見直されることなく貸し付けられてきた。
放置と不作為の90年であります。
問題は、貸し付けの相手方にあるのではありません。
90年もの間、この状態を問い直すことなく放置してきた、県政そのものの姿勢にあります。
問うべきことを、問わなかった。
正すべきことを、先送りにし続けた。
それが、この問題の本質であります。
県有地は、特定の誰かのものではありません。
全県民の財産であり、その利益は、広く県民に還元されるべきものであります。
私は、この原則を譲るわけにはいかないと考えました。
そして、適正な条件への是正を求め、法的な手続きにも踏み込みました。
結果は、敗訴でありました。
しかし、この挑戦には、判決を超えた意味がありました。
90年間、問われることのなかったこの問題が、初めて広く県民の目に触れることになりました。
初めて県民の視線のもとで、検証にさらされることになりました。
そして多くの県民が、県の財産には適正な対価が支払われるべきだという、当たり前のことを、当たり前のこととして共有するようになった。
現在も、賃料の適正化に向けた交渉は続いております。
この歩みは、一つの裁判で終わるものではありません。
問うべきことを問い続ける。
正すべきことから目を背けない。
それこそが、県政の責任であります。
こうした課題に向き合うとき、ときとして理解が得られないこともあります。
孤立することもあります。
心ない攻撃すら受けます。
正直に申し上げます。
正しいと信じる道を歩き続けることが、これほど孤独で、これほど理不尽で、時にこれほど虚しいものかと、何度も、立ち止まりそうになりました。
ここで、一つだけ、 個人的なことを申し上げることをお許しください。
私は、この甲斐の国に生まれた人間ではありません。
この土地の風土に育てられたわけでも、この土地の祭りの中で大人になったわけでもありません。
知事に就任した当初、「お前に山梨の何がわかる」という声を聞きました。
胸に刺さりました。
だからこそ、行動で応えるしかないと、心に決めました。
出自は選べません。
しかし、政治家としての責任をどこに置くかは、自らの意思で決められる。
私は、その責任を、山梨に置くことを選びました。
血縁ではなく、覚悟で。
出身ではなく、情熱で。
それが、この土地に対する、私の誠意であります。
その誠意を貫くために、この7年間、私は、その時々の評価ではなく、歴史に対する責任を、拠り所にして参りました。
歴史に対する責任とは、一部の利益に応えることではありません。
県民一人ひとりが実感できる、新しい豊かさを追い求めること。
それが、私にとっての歴史への責任であります。
今、その志は、県政に携わる一人ひとりへと、確かに広がり始めています。
先日、若手の職員たちと、県庁近くの居酒屋で杯を交わす機会がありました。
その席で、ある職員がこう言ったのです。
「自分の仕事が、山梨を前に進めている実感がある」、「山梨を変えていく仕事に携わっているという自負がある」と。
そして最後に、こう続けました。
「仕事が、楽しい」と。
この一言を聞いたとき、私は、この7年間の歩みは間違っていなかったと感じました。
一部の利益のためではなく、県民全体の未来のために働く。
その使命を自分のものとして引き受けたとき、人は、仕事に歓びを見出す。
この県政は、確かに変わりつつあります。
そして、この変化は、県政の内側にとどまってはいません。
本日申し上げてきた一つひとつの取り組み、水素の実装、富士山の管理、所得構造の改革、人口減少への挑戦、産業構造の転換、そして100年先を見据えた人づくり。
全て、この県政の変化の中から生まれてきたものであります。
誰かに与えられるのを待つのではなく、 自分たちの手で課題を掲げ、自分たちの力で「解」を示す。
そしてその「解」を、県民全体の豊かさへとつなげていく。
冒頭に申し上げた、甲州人の流儀そのものであります。
その甲州人本来の気概が、県政から地域へ、 地域から県民の暮らしへと、確かに甦り始めている。
この甦りこそが、私たちが7年かけて取り戻してきた、山梨本来の力であります。
しかし、この歩みは、まだ始まったばかりであります。
私たちの挑戦は、まだ道半ばです。
だからこそ、今、問われているのであります。
この前進を続けるのか、ここで止めるのか。
山梨を、後退させるわけにはいきません。
この前進を、ここで止めるわけにはいかない。
まだ、先がある。
まだまだ。
やらなければならない。
私は、来る2027年の知事選挙において、引き続き県政の先頭に立つ覚悟を、固めました。
これは、私個人の挑戦ではありません。
山梨が選び取ってきた前進の流れ、そのものの挑戦であります。
県民の皆様とともに、山梨の新しい時代を切り拓いて参ります。
この前進は、止めません。
未来の世代のために。
令和8年2月17日
山梨県知事 長 崎 幸太郎