ページID:107668更新日:2023年1月26日
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複合災害とは、複数の災害が短期間に立て続けに発生する現象のことです。東日本大震災では大地震の後に津波が来るという複合災害が発生しました。日本は自然災害の多い国であり、災害がいつ起こるか完璧に予測できません。山梨県では起こりえる災害に対しての対処を、県土づくりや富士山火山噴火といったさまざまな視点から行っています。
当記事では、複合災害の概要と事例、対処法、また山梨県の災害対策について解説します。ぜひ参考にしてください。
複合災害とは、複数の災害がほぼ同時に発生することです。ある災害からの復旧中に別の災害が発生した場合も、複合災害と呼ばれます。
複合災害として発生しうる災害の一例は、次の通りです。
複合災害が起こると、単一災害に比べて被害状況が悪化したり復旧に時間を要したりするケースが生じることがあります。
以下は、複合災害の対応が困難である理由を大きく3パターンに分けた表です。
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災害Aによって災害対応資源が著しく低下した状況で災害Bが発生し、災害Bの被害が拡大する 例)巨大地震が発生し堤防や水門が損傷、台風が直撃して河川氾濫が発生 |
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災害Aで被害を受けた地域が復旧しきっていない状況で災害Bが発生し、災害Aへの再対応を余儀なくされる 例)巨大地震が発生し復旧・復興中に巨大台風が直撃して復旧・復興に対応が遅れる |
(3) |
ある地域と近隣の別の地域で同時に複数の災害が発生し、災害対応資源を分散させたために対応力が低下する 例)A町で巨大地震が発生後B町でも地震発生、市内対応資源が不足し対応困難になる |
次に、具体的な複合災害の事例について解説します。
2011年3月に発生した東日本大震災は国内観測史上最大規模のマグニチュード9.0を記録し、観測された最大震度は7でした。2021年3月では、震災による死者は約15,900人、行方不明者は約2,520人と発表されています。
出典:消防庁災害対策本部「平成23年(2011年)東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)について」
出典:警察庁「平成23年(2011年)東北地方太平洋沖地震の警察活動と被害状況」
地震とともに大規模な津波や福島第一原発事故が発生した東日本大震災は、1995年の阪神・淡路大震災を機に防災体制強化を進めてきた国にとっても想定外の大災害でした。庁舎や各種ライフラインの被災は、被災地への物資調達や災害救助隊派遣などにも多大な影響を及ぼし、多くの被災者が長期間の避難生活を強いられました。
2004年10月に発生した新潟県中越地震はマグニチュード6.8の直下型地震であり、阪神・淡路大震災以降では観測史上2度目となる最大震度7を記録しました。
出典:内閣府「・200404:2004年(平成16年) 新潟県中越地震・新潟県」
同年冬に被災地で19年ぶりの豪雪が記録された新潟県中越地震は、地震と豪雪による複合災害の典型例の1つです。地震で斜面が荒廃したために雪崩の被害が拡大し、雪崩によって川がせき止められたことで床上浸水に至った家屋もありました。一部地域では積雪によって地震発生後の道路復旧工事に遅れが生じました。
出典:新潟大学積雪地域災害研究センター「中越地震と豪雪がもたらした複合災害」
令和2年7月豪雨は、2020年7月に九州から東日本にかけての地域で発生した記録的な集中豪雨です。特に被害の大きかった九州では大規模河川の氾濫が相次ぎ、熊本県では高齢者福祉施設の入居者14名が逃げ遅れて犠牲となりました。
出典:気象庁「令和2年7月豪雨 令和2年(2020年)7月3日~7月31日 (速報)」
出典:国土交通省「令和2年7月豪雨災害を踏まえた高齢者福祉施設の避難確保に関する検討会」
令和2年7月豪雨は、新型コロナウイルス感染症流行下における災害の代表例でもあります。熊本県内の避難所では検温や避難者間のスペース確保などの感染防止対策が取られ、医療従事者の派遣要請やボランティアの参加促進なども県内に限られました。
出典:熊本県「令和2年7月豪雨における災害対応の振り返り【概要】」
災害による人的被害や物的被害を最小限に抑えるには、単一災害のみならず複合災害を見据えた防災対策が不可欠です。近年は南海トラフ地震や首都直下型地震などに備えて、具体的な対策を立てている自治体も少なくありません。
以下では、複合災害への対処法に関する内閣府の提言について解説します。
地震や水害、土砂災害などのさまざまな災害を具体的に想定し、災害に対する地域ごとの強みと弱み、広域的な影響が分かるようにする必要があります。より具体的な施策につながるよう科学的かつ技術的な視点から事前の防災を検討し、実施方法を構築します。
大規模災害の被災地では災害対応資源が不足しやすく、後発災害が大規模でなくても被害が拡大しやすいです。そのため、地震後の水害や感染症蔓延などさまざまなシナリオを想定した対策の検討や対応の訓練が必要です。地震と水害をセットにして対策を検討する場合は、行政区分にとらわれず地形的あるいは社会的なまとまりである流域単位で意識した対策が有効と考えられます。
2021年の法改正により、「災害発生の恐れあり」の段階での災害対策本部設置が可能となりました。広域避難をスムーズに進めるには、より早めの避難を要する住民のリストアップをはじめ具体的かつ現実的な広域避難の方策検討が不可欠です。国は避難所の環境改善や避難者支援の充実などに対応するための指針を示す必要があります。
大規模災害において、十分な避難所を確保できるとは限りません。そのため、在宅避難や縁故避難の推進をはじめとする避難支援や長期間にわたる避難のあり方について広く検討することが重要です。自治体の負担を減らすべく、近隣自治体による避難者受け入れやNPOなどを活用した避難所運営システムの整備も期待されます。
ハザードエリア内における住み方の工夫や既存施設活用などの短期的対策と、災害リスクを考慮したまちづくりのための中長期的対策をバランスよく進めることが重要です。中長期的対策はすぐに効果が出るわけではないため、速やかな対策の推進が求められます。
水害、地震、火災、液状化などさまざまな災害に対応した土地利用を進め、災害に強いまちづくりを進めることも重要なポイントです。土地利用の検討においては住民とのリスクコミュニケーションが不可欠であり、さまざまな災害に関するリスク情報を提供しやすい体制づくりが求められます。事情があり移転が難しいハザードエリアの居住者に対しては十分な配慮が必要です。
南海トラフ地震や首都直下型地震に加えて富士山火山噴火などさまざまな災害への対策を要する山梨県は、2015年に「山梨県強靱化計画」を策定しました。
同計画では、災害の被害を最小限に抑えるための事前防災や減災、そして速やかな復旧復興などについて提唱しています。
山梨県は急峻な地形や災害に弱い地質が多い地域であり、災害リスクに備えた県土の強靱化が重要な課題となっています。2019年の東日本台風における交通網の被災を機に、県は国や隣接都県市、関係機関と共同で「東京〜山梨・長野 交通強靱化プロジェクト」を設立しました。プロジェクトの主旨は「交通網の脆弱性解消」であり、脆弱箇所の強靱化、復旧作業の効率化、災害発生時の交通マネジメント強化が取り組みの方向性として定められています。
ほかにも、水害対策に向けた県内河川の治水工事、がけ崩れ対策や土石流対策のための工事、基幹道路や高速道路の整備も重要な課題です。
富士山では、1707年の宝永噴火を最後に約300年間噴火は確認されていません。しかし万が一大規模噴火が起これば大きな被害が発生する可能性があるため、関係機関の緊密な連携による防災対策が求められます。
富士山火山防災対策協議会は、2020年度に富士山火山ハザードマップを改定しました。富士山に関するさまざまな調査研究の結果、それまで想定されていた火口範囲や溶岩流などの影響範囲が拡大する可能性が明らかになったためです。ハザードマップ改定を受けて県は、さまざまな噴火シナリオを想定した新しい避難方針の策定や広域避難計画の改定などに取り組んでいます。
出典:富士山火山防災対策協議会「富士山ハザードマップ改定について」
事業継続計画(BCP)は、緊急事態発生時に事業をできる限り継続させたり素早く復旧させたりするために、事業継続の方法・手段を取り決める計画です。
県は山梨県防災バックアップ戦略を策定し、企業に対して防災対策の一つとしての事業所移転を勧めています。巨大地震などで首都圏の機能が麻痺した場合、全国の政治経済に甚大な影響が生じかねないためです。防災面から他都県をサポートすることで県内の混乱も抑えやすくなります。
企業の事業所移転には多くの課題があることも事実です。そのため、山梨県は防災バックアップ・サポートデスクを設置し、県内への事業所移転や人材確保などに関する相談に対応しています。
複合災害とは、複数の災害がほとんど同時に起こることです。災害が起こった後の復旧・復興中に起こった災害も複合災害です。複合災害が起こると、単一災害に比べて被害状況が悪化、または復旧に時間を要する傾向にあります。内閣府では複合災害の対処法を事前防災や避難対策、住み方の工夫などカテゴリーに分けて提言しています。
山梨県では南海トラフ地震や首都直下型地震、富士山火山噴火などに備えて、2015年に「山梨県強靱化計画」を策定しました。災害対策では、災害に強い県土づくりや富士山火山防止対策、事業継続計画に加え、事業をサポートする山梨県防災バックアップ戦略も行っています。