ページID:114691更新日:2024年3月25日
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山梨県の耕地面積は約23,200ヘクタールで、そのうち田の面積は約7,650ヘクタールと全体の約33.0%を占めています。山梨県は果樹園の割合が高いため、全国平均より田の割合は低いですが、恵まれた自然環境と生産者の技術により、美味しいお米が生産されています。また山梨県はミネラルウォーターの生産量日本一を誇る名水の産地でもあり、地域ごとに個性を持つ良質な水に恵まれています。大自然に磨かれた清らかな水と、山梨のお米が出会ったら、美味しいごはんが楽しめるのは間違いありません。そこで山梨県産のお米を家庭で手軽に美味しく味わうために、日本料理「八ヶ岳えさき」のシェフ、江﨑新太郎さんにお米とお水の相性や魅力、そして美味しい炊き方を教えていただきました。
1962年東京生まれの江﨑さんは、大学卒業後、日本料理の道に進み、赤坂料亭「山崎」をはじめ、東京、京都の料理店で修行を重ねて1994年に独立し、東京・青山に「青山えさき」を開店。青山の名店として24年間営業したのち、2018年に八ヶ岳に移住し、八ヶ岳南麓の美しい自然に囲まれた地に「八ヶ岳えさき」を開店されました。現在はランチ・ディナーともに1日ひと組だけのお客様に、全国各地から厳選した旬の食材の美味しさを最大限に生かした献立を提供しています。今回はそんな江﨑さんに山梨県産のお米3品種と県内6水系の水の味をみていただき、炊飯に適した水の選定と、家庭で気軽に楽しめるようにと、あえて炊飯器を使った美味しい炊飯方法を教えていただきました。
7年連続ミシュラン三ツ星を獲得し、現在山梨県で活躍されている「八ヶ岳えさき」の江﨑新太郎シェフ
(左から)武川コシヒカリ、にじのきらめき、農林48号
「武川コシヒカリ」は、甲斐武田家の同族である「武川衆」が領地で収穫されたお米に「武川米」と命名したといわれる歴史ある地で育まれてきました。南アルプスの良質な天然水、花崗岩質の土壌、日本有数の日照時間といった美味しいお米の栽培に極めて適した条件が揃った「武川筋」と呼ばれる北杜市・韮崎市の釜無川右岸の地域で栽培されいます。美味しいお米をつくるために栽培方法も改良するなど、熱意ある米農家が丹精こめてつくっている味・艶・香りの三拍子が揃った山梨を代表するお米です。
「にじのきらめき」は国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構が平成30年に品種登録をした新しい品種です。夏の高温にも強く収穫量や外観品質が優れていて、地球温暖化にも対応できるお米です。また台風などにも倒れにくい特徴があるので、農家にとっても栽培しやすい品種として期待されています。暑い夏でも品質が低下しにくく安定していて、味はコシヒカリと同じくらい良好と高い評価を得ています。
「農林48号」は昭和25年に山梨県で奨励品種に指定されたものの、栽培の難しさから姿を消してしまいました。しかし味わいの良さに惚れ込んだ農家が努力を重ねて復活させ、平成9年に再度奨励品種となりました。現在は武川コシヒカリと同じく美味しいお米の栽培に適した「武川筋」を中心に、肥料などを農家が工夫しながら栽培しています。山梨が国内で唯一の産地であり「幻のお米」と呼ばれています。艶があり色は白く、粘り気が少なく粒離れが良くて旨味の立ち上がりが早いという特徴があります。
山梨県は豊かな自然環境に育まれた名水の地として「天然の水がめ」とも呼ばれています。八ヶ岳山麓水系、南アルプス山麓水系、秩父山麓水系、富士・御坂水系、富士北麓水系、御坂北麓水系の6つの水系があり、水系ごとに個性があることも魅力です。「山梨の水はどれも素晴らしいですね。私が八ヶ岳で店を開こうと思った大きな理由のひとつに美味しい水との出会いがあります。『出汁を引く』和食にとって水はとても重要なものなのです。今回私は県内6水系の水の味と成分を実際に飲み比べて確認させていただきました。水にはカルシウムなどのミネラル分が多く溶け込んでいる硬水と少ない軟水があり、料理との相性もそれぞれ違います。クセがなくまろやかな軟水は旨味を引き出してくれるので、出汁を引く和食に向いています。硬水は炊飯などに使うとやや硬めの炊き上がりになる傾向がありますが、朝の一杯目に飲むにはミネラル豊富で良いですね。炊飯、煮物、飲用などに使い比べてみて、自分に合った使い方を見つけてみるのも楽しいと思います。今回私は6水系の水の中から南アルプス山麓水系の水を炊飯用に選びました」と江﨑さん。柔らかくスーっと体に浸透してくるような優しさが決め手になったそうです。
南アルプス山麓水系のミネラルウォーター「白州汲みたて天然水」
「お米はできるだけ低温で管理することが大事です。買ってきたお米は冷蔵庫に保管して、洗う時も冷水を使い、浸水している時も冷蔵庫に入れてください。低温で丁寧に扱う!これがポイントです。なぜなら低温にしておくと、でんぷんがお米の中でじっとしていてくれますし、冷えたお米を冷たい水で炊けば沸騰する時間が長くなります。でんぷんは80℃を超えると糖化するので、この時間の長さが甘味を引き出すコツなんです」と江﨑さん。ではさっそく「低温と丁寧」を意識しながら、炊飯の手順を見ていきましょう。
①正確にお米を計量してザルに入れる。
②冷たい水でお米を洗う。「臭みが残らないように一回目の水はすぐに捨てるとよく言われますが、お米はそんなにすぐに吸湿しませんから、気にしなくて大丈夫です。今は精米技術が進んでいるので、ザルに入れたお米を手で優しくまぜるように3回洗ってください。ゴシゴシ研ぐと旨味やでんぷんが逃げてしまいますから、私はいつもお米の洗いは1分半で終わらせています。
③洗ったお米をボールに入れて浸水。浸水用の水は冷蔵庫で冷やしておいた南アルプス山麓水系の水を使用し、冷蔵庫で15分おく。
④ザルにあげて冷蔵庫でさらに15分おく。「ずっと水に浸けておくとお米が柔らかくなりすぎて割れてしまう場合があるので、ボールとザルそれぞれ15分で合計30分の浸水をまず基本にしてみてください」
⑤浸水が終わったお米を炊飯器に入れる。
⑥冷蔵庫で冷やしておいた南アルプス山麓水系の水をメモリに合わせて入れ、炊飯開始。すでに浸水してあるので早炊きモードで炊くのがポイント。「私の感覚では、にじのきらめきは他の2品種より若干浸水時間を長めにしてもいいかなと感じました。皆さんもお好みの炊き上がりに適した浸水時間や水加減を見つけてみてください」
⑦炊き上がったらすぐにかき混ぜる。「旨味と水分が下に溜まっているので、中が平均になるように、ふんわり優しくかき混ぜます」
⑧混ぜたらすぐにフタをして3分間蒸らす。
⑨3分経ったら出来上がり。「真ん中をこんもりと高めにして、ふわっと盛るのがポイントです」ツヤツヤふっくら炊き上がりました!
にじのきらめき、武川コシヒカリ、農林48号
「山梨のお米が美味しいのは、昼夜の寒暖差や日照時間の長さ、良質で豊富な水、豊かな土壌といった素晴らしい山梨のテロワールがあるからでしょう。今回このような機会をいただき、私も山梨のお米と水にあらためて向き合い、その魅力を実感しました。3品種のお米はどれも美味しかったですが、新品種「にじのきらめき」の美味しさは想像以上で、私もとても気に入りました。これからは親しみを込めて『にじきら』と呼ぼうと思います」と笑顔をみせる江﨑さんに、味わいの感想を詳しく伺いました。
にじきら、すごくいいですね。コシヒカリと同等の美味しさがあり、さらに甘味も強いです。粒も大きくもっちりとした食感で食べ応えもあります。冷めても美味しいのでお弁当に使うのもおすすめです。試しに冷凍して、レンジで解凍してみたところ、それでも甘みがしっかり残っていて美味しかったです。冷凍する際のポイントは炊き立てをすぐに一膳分ずつ平らにしてラップに包み、ジッパー付きの密閉保存袋に入れ、冷めたら冷凍庫に入れることです。にじきらは期待の新品種だと思います。
これぞ鉄板!の美味しさですね。名実ともに山梨を代表するお米だと言えるでしょう。もっちりとした粘りと適度な甘み、そして豊かな香りがあります。炊き上がりの粒も輝くようにきれいでした。さまざまなおかずとの相性も良く、毎日食べたくなる美味しさがあるのが武川コシヒカリの魅力です。
硬さの中にも、ふくよかな柔らかみが感じられます。お米の表面にひとつカラが被っているようなイメージとでも言いましょうか、口の中でそのカラが、パッと割れて粘りのある旨味があふれ出てくるような感じがあります。噛むほどに美味しさが口の中に広がる農林48号は、どこか懐かしい雰囲気のある歴史を感じさせてくれるお米です。
山梨県は日本有数の名山が連なり、県土の約8割を広大な森林が占める美しい自然の宝庫です。その大自然に磨かれた豊かで良質な水と、美味しい農産物を作るのに適した気候や土壌に恵まれ、山梨には今回ご紹介したお米の他にも、たくさんの魅力あふれる「食」が揃っています。この素晴らしい山梨のテロワールで、次はどんな美味しさに出会えるのでしょうか。山梨の食の魅力と可能性をこれからも見つけながら美味しい時間を過ごしてみませんか。