トップ > 組織案内 > 観光文化・スポーツ部 > 山梨県埋蔵文化財センター > 埋蔵文化財センター_遺跡トピックス一覧 > 埋蔵文化財センター_遺跡トピックスNo.485甲ッ原の獣面把手土器?水煙把手土器異聞?
ページID:87247更新日:2018年9月19日
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水煙把手土器に関するトピックス |
甲ッ原遺跡の土器で、口縁部に大きなイノシシのような把手がつく土器があります。イノシシの顔のようなので獣面把手と呼んでいます。縄文時代中期後半の曽利式土器の初期に位置づけられます。あまり見かけない土器ですがわずかながら類例があり、この土器も水煙把手土器の仲間であると考えられるようになりました。水煙把手土器とイノシシがつく獣面把手土器との関係を探ります。 1)二つの系譜をもつ水煙把手土器水煙把手土器は、遺跡トピックス0464で山梨県指定文化財になっている甲州市安道寺遺跡出土の土器について、その生い立ちの謎にせまりました。またもう一つの生い立ちをもつドーム形水煙把手をもつ甲府市上野原遺跡出土の土器は、在地の伝統からまた新たな水煙把手土器として成立することを遺跡トピックス0480で紹介しました。すなわち安道寺遺跡の水煙把手土器のような他地域(東北方面)の土器型式から誕生してくるものを安道寺タイプとすれば、上野原遺跡の例で地元山梨の土器型式から文様を立体的につくることで成立する上野原タイプという、二つの系譜があります。いずれも中空となる大きな四つの水煙把手が口縁部を越えて大きく立ち上がるのが特徴です。
獣面把手土器の出土状況ひとつ古い井戸尻式土器と共伴している
2)甲ッ原遺跡の獣面把手土器この土器は一つの把手が水煙文ではなく獣面として大きく立ち上がります。四つの把手があるのですがいずれも口縁部より上にはたちあがりません。でも口縁部までのふくらんだ把手の頂部にはいちおう渦巻き文がかかれています。把手以外の口縁部は文様がなく中段には粘土紐を小さくくねらせて2段重ねて土器を一周させています。胴体はタテの沈線でうめられU字形の文様が貼り付いています。こうした土器の特徴から、中期後半の曽利I式土器であることがわかります。ただしイノシシを表現している獣面把手は、平坦な正面に口が大胆に描かれ、細かな渦巻きなどの曲線でうめられています。この文様表現技法は曽利I式よりも古く、明らかに前時期の施文技法を用いています。すなわち土器本体よりも把手だけが古い表現となっているのです。そもそも曽利式土器にはイノシシ文様はありません。あえて付けるとすれば前時期の伝統的な技法によらざるをえなかったのでしょう。きわめて特殊な事例です。
3)系譜を探ると連続している甲ッ原遺跡の土器に似た類例を探すとわずかにありました。山梨県甲府市村上遺跡の出土土器は、少し古い様相をもっていますが文様構成もほぼ同じで一つの獣面把手(おそらくカエル)がついています。長野県富士見町の大畑遺跡出土土器は、一つの大きな渦巻き文(ヘビか?)把手がついています。土器の胴体の文様も甲ッ原遺跡ほぼ同じ時期のものですがわずかに古い様相をもっています。管見の限りこれだけしかみつかりませんでした。系譜的にもこれらは連続した変遷をたどっていますので、一発屋の例外的な事例であるわけでもありません。
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