トップ > 組織案内 > 観光文化・スポーツ部 > 山梨県埋蔵文化財センター > 埋蔵文化財センター_遺跡トピックス一覧 > 埋蔵文化財センター_遺跡トピックスNo.494一の沢遺跡の人体文土器 人をモチーフにした土器2

ページID:89727更新日:2019年5月14日

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一の沢遺跡の人体文土器~人をモチーフにした土器2~

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笛吹市一の沢遺跡の土器で、人体が四人書かれたような文様の土器があり、まるで人が踊っているかのようなデザインです。ここに描かれている人の文様には男女がいることはわかるのですが、どのような意味があるのでしょうか。その解釈をめぐってはいくつかの説があります。いろいろな考えがあって定説というのはだせませんが、その中から縄文時代の人が土器に込めた物語を探ってみます。

1)踊る男女の文様

山梨の縄文土器は、美しい形で流れるような曲線や渦巻き文様がつき、なかには人の顔、踊る人、動物の姿をした文様をあちらこちらにみることができます。こうした表現は縄文人たちがふだん語り合った物語の一場面なのかもしれません。土器の器面をキャンパスにしてぐるっと一周するとその全容がわかります。この一の沢遺跡の土器も正面からだけではなく全周をみることで文様全体がひとつの物語になっていることがみえてきます。なおこの人体文がつく縄文土器は、遺跡トピックス0293で遺跡とともに紹介しているので合わせてご覧ください。

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この土器の正面は、縁に付く大きな突起を奥において見たときになります。人物は粘土紐を貼って棒線で表現されています。
1)まず正面には三角形の頭をして左を向いて立つ人がいます。手は斜め下に向かい上の方へくるりとまわります。腰のところにふたつのコブがあり、足は三角形で右向きになっています。正面の三角頭の人が両手を広げて手をさしのべるようにして足は閉じて立つ。
2)正面の右の人は、円形の頭でおなかがまるくでています。手を上に上げておなかが丸くでていますので、正面の人のほうを向いている、すなわち横向きで、とすれば左手をあげているのでしょう。おなかの下にはちいさな突起がでていて、おそらく男性器と思われます。足は小さな円文になっています。
3)土器の裏側にも正面と同じように頭が三角形で左向き、手はひし形に表現され、腰に手を当てているように見えます。足も右足の膝を右向きにまげて立っているように三角形で表現されています。背面には三角頭の人が両手を閉じ腰に当てて片足を広げ膝は曲げて立っている。
4)正面左側にも円形の頭をした人が立っていて、あげている手とまるくつきでたおなかが正面の人の方を向いているので、横向きと思われます。このひとには男性器がありませんが、足は円文になっています。
すなわち、1)の左右には丸い頭の人が横向きで正面の人をはさむように手をあげて立っています。このように4人のひとがそれぞれポーズを変えて立っているのがわかります。また人物には円頭円足と三角頭三角足をした2種類の人がいるといえるでしょう。円頭のひとりは男性といえます。わたしたちがわかるのはここまでです。この文様による人物の配置がなにをどう意味するか、あとは想像にまかせることになってしまいます。でも果敢に挑戦してみましょう。

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2)踊る人物像とは?1説

縄文土器の文様に描かれる人物や動物の描き方はひじょうに抽象的で誰が見てもそうだという表現はあまりありません。写実的でなく特徴となるところだけを強調して表現します。そしてその表現方法はいつも同じ表現となっているので、社会で認知されたカタチだったといえます。
一の沢の土器の人物像をみてみましょう。円形の頭をした人物2体と三角頭人物が2体、交互に並んでいます。正面の三角頭の右にいる円形頭の人物には男性器と思われる表現があるので男性とします。左側の円形頭には男性器はありませんが、右側の円形頭とおなじ表現方法になっているのでこちらも男性であるといえます。
では正面の三角の頭と背面の三角の頭は共通した表現ですが、円形頭とは異なるのでこれらは女性とします。すなわち三角頭=女性、円形頭=男性という表現と考えられます。すると土器の、正面には手を広げて足を閉じている女性を中心に、背面には手を閉じ腰に当てて片足を広げてポーズをとる女性、その女性の方を向いて両脇に男性が左右対称に立っている、という配置になっているといえます。
女性2体はポーズが逆に、男性2体は向きが逆に、それぞれ異なって表現されています。こうしたことからこれら4人の人物には動きがあるようにみえます。女性は手を広げてから手を閉じ、足を閉じてから足広げる。男性は手をあげて右向き、手をあげて左向きで性器露出、と動いているすなわち踊っているのでは、と考えるのが1説です。

3)神と崇める人たち2説

男女二人ずつではなく、神とそれをあがめる人たちという見方もあります。手を広げたまんなかの人物に、両側から人物が手を合わせて祈っているようにもみえます。右側の人物には男性の性器があるので男性、左側の人物はおおきなお腹が描かれているので女性ということです。背面のもう一人は超しに手をあてて片足で立っているので踊っているのでしょう。すなわち、正面の人物が神あるいはマツリの主催者で、男性と女性が手をあげて祈っているところなので、結婚式を表しているか、あるいは出産の安産祈願をしているのではないかといえるでしょう。そして背後の人物が片足を上げて、両手を腰にあてているのは、バランスをとっている姿なので、善悪や良・不良、福と不幸、生と死などのバランスを掌る神ではないかと思えます。祈りとバランスの表現は、祈りが成就されるか否か、神のみぞ知ることでしょうか。
すなわち、頭が三角形なのが神で、丸いのが人物という解釈です。二人の丸頭の人物の一人には男性器があるので、それぞれ男女というのが2説です。
(末木健2009「縄文時代の動物・人体文様を解く」『山梨県考古学論集VI』)

4)何を表現しようとして

縄文土器の文様は、このように見る人によっていろいろに解釈できてしまいます。それは文様が何に見えるか、という問いから答えを見つけようとするからです。これは私たち現代人の感想になってしまいます。縄文人は何を表現しようとしているのか?と問うことが大事なのです。それは他の土器との比較することで、同じ文様構成があれば、その文様に共通した特徴がすなわち社会規範として表現しようとしているものと考えられます。

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甲州市重郎原遺跡出土土器

この一の沢遺跡の土器と同じような文様構成をもつ土器がもう一つ甲州市重郎原遺跡にあります。こちらは円頭の人物2体が両手を広げて先がまるく、腰は少し引いて足がまるまります。腰をくねらせて踊っているかのようです。人物の間にはひし形のモチーフがはさまります。このひし形は、一の沢遺跡の土器の背面にいる女性像の腰に手を当てているところと同じ文様です。このひし形は女性像が簡略化されて描かれているものとすれば、踊る男性とひし形女性が交互に並んでいるといえます。
一の沢遺跡の土器とポーズは違いますが同じ人物配置になります。中心人物を取り囲んで崇めているようには見えず、やはり男女が交互に並んでいるとみるのが自然です。すなわち一の沢遺跡の1説が表現しようとしているものといえ、これが土器に共通してみられる文様構造すなわち社会に共有されたある男女が踊る一場面の表現なのでしょう。土器に見られる共通した特徴は、その社会で広く共有された表現方法といえるのではないでしょうか。

 

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