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ページID:98835更新日:2021年3月19日
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【山梨県産業技術センタープロポーザル】
産業技術センターをより活用していただくため、センターの研究や設備などをわかりやすく紹介します。
■研磨宝飾品日本一の産地、山梨
山梨県の研磨宝飾産業の始まりは江戸時代に京都から水晶研磨技術が伝わったことに始まります。明治時代には交通網の発達により水晶の一大産地として全国的に有名になりました。また、水晶工芸品をより華やかに仕立てるため、金が好まれるようになり、貴金属工芸も発展しました。
現在、山梨県は貴金属製装身具の出荷額の約21%を占めており、日本一のシェアを誇っています(2018年出荷額、経済産業省「工業統計調査」より)。
■研磨宝飾産業の環境変化
地金価格、特に金の価格がここ数年で高騰している他、消費者の節約志向も相まって貴金属製装身具の出荷額は減少傾向にあります。近年、消費者は低価格な銀合金製や低品位金合金製の宝飾品を求めるようになり、これら低価格製品では材料費や製造コストを抑えなければ十分な利益が得られない状況となっています。
■研磨工程の課題
宝飾品の主な製造工程は、原型製作→鋳型製作→鋳造→研磨・仕上げ、となっています。この中で、研磨・仕上げ工程は一部を手作業で行っている場合も多く、大量生産が困難で人件費も多くかかっていました。この問題を解決する手段として、一度に大量かつ均一に研磨・仕上げを行えるバレル研磨という方法があります。しかし、バレル研磨は投入個数、メディアの種類、水温、回転数などパラメータが多く存在し、最適条件の検討は簡単ではないため、導入を見送る企業もいます。
そこで、センターでは効率的に最適条件を推定できる「品質工学」を活用し、バレル研磨条件の最適化に関する研究を実施しました。
図センターのバレル研磨機
■品質工学による条件検討
品質工学とは、実験条件や製造工程の評価により最適条件を見つけ出し、研究開発の効率化や製造の低コスト化を実現する方法論で、産業界において幅広い分野で利用されています。パラメータ設計という評価手法を用いることで、条件検討に必要な実験数を劇的に少なくすることが可能です。
本研究ではパラメータ設計によりバレル研磨の研磨条件を評価し、最適な研磨条件を検討しました。
■最適なバレル研磨条件
品質工学におけるパラメータ設計では、実現したい理想状態を考え、それに影響を与える温度や個数などのパラメータ(制御因子)を設定します。本研究で取り上げたバレル研磨では「安定してきれいな製品に仕上げること」が理想状態であると言えます。また、「粗研磨」と「中研磨・仕上げ」の各研磨工程において、仕上げに影響を与える制御因子は表1、表2のようになると考えられます。
表1粗研磨における制御因子
水準 |
||||
因子名 |
1 |
2 |
3 |
|
A |
磁気バレル |
あり |
なし |
ー |
B | メディア種類 |
M-1 |
M-2 |
M-3 |
C | コンパウンド濃度(%) |
0 |
2 |
5 |
D | 製品個数(g) |
250 |
150 |
50 |
E | マス装入量(%) |
35 |
50 |
65 |
F | 水位 |
マス下 |
マス面 |
マス上 |
G | 回転数(rpm) |
150 |
200 |
270 |
H | 加工時間(min) |
15 |
30 |
45 |
色付きセルは現行条件
表2中研磨・仕上げにおける制御因子
水準 |
||||
因子名 |
1 |
2 |
3 |
|
A |
中研磨メディア |
MM-1 |
MM-2 |
ー |
B | 中研磨回転数(rpm) |
200 |
240 |
270 |
C | 中研磨時間(min) |
20 |
40 |
60 |
D | 中研磨水量 |
マス下 |
マス面 |
マス上 |
E | 仕上げ研磨メディア |
MF-1 |
MF-2 |
MF-3 |
F | 仕上げ研磨回転数(rpm) |
200 |
240 |
270 |
G | 仕上げ研磨時間(min) |
20 |
40 |
60 |
H | 仕上げ研磨水量 |
マス下 |
マス面 |
マス上 |
色付きセルは現行条件
一方、実際の製造現場では、気温(室温)の変化や研磨材(メディア)の経年劣化などは避けることができません。従って、これら避けることができない事象(誤差因子)に対して、影響を受けないパラメータの条件が決定できれば、「安定してきれいな製品に仕上げること」ができるはずです。本研究では、誤差因子と考えられる複数の因子について検討を行い、粗研磨ではメディアの劣化が、中研磨・仕上げでは製品投入量が誤差因子として大きな影響を与えることがわかりました。
また、表1及び表2の条件について、全ての組み合わせを実験して最適条件を突き止めるには、各表につき2×37=4374回の実験が必要となり、非現実的です。しかし、品質工学の考え方を利用すると、各表につき最少18回の実験で最適条件を推定できます。品質工学に基づいて効率的に実験を実施し、得られた最適条件を表3および表4に示します。
表3粗研磨における現行条件と推定最適条件
因子名 |
現行条件 |
最適条件 |
|
A | 磁気バレル |
あり |
なし |
B | メディア種類 |
M-1 |
M-2 |
C | コンパウンド濃度(%) |
2 |
2 |
D | 製品個数(g) |
150 |
50 |
E | マス装入量(%) |
50 |
50 |
F | 水位 |
マス面 |
マス下 |
G | 回転数(rpm) |
270 |
200 |
H | 加工時間(min) |
30 |
15 |
表4中研磨・仕上げにおける現行条件と推定最適条件
因子名 |
現行条件 |
最適条件 |
|
A | 中研磨メディア |
MM-1 |
MM-2 |
B | 中研磨回転数(rpm) |
270 |
270 |
C | 中研磨時間(min) |
40 |
40 |
D | 中研磨水量 |
マス面 |
マス面 |
E | 仕上げ研磨メディア |
MF-1 |
MF-1 |
F | 仕上げ研磨回転数(rpm) |
270 |
200 |
G | 仕上げ研磨時間(min) |
60 |
20 |
H | 仕上げ研磨水量 |
マス面 |
マス上 |
表のとおり、品質工学に基づいて推定された最適条件は、現行の条件とは異なるものとなりました。実際に推定された最適条件が現行条件よりも優れるか確認実験を行ったところ、表面粗さが減少し、よりきれいな仕上がりとなることが確認されました。
左:現行条件右:最適条件
■今後の展開
本研究によって、品質工学のパラメータ設計を用いてバレル研磨の最適条件を検討できることが明らかになりました。この手法を用いれば、誰でも客観的に研磨条件を評価することが可能です。各企業で取り扱う製品のサイズや個数、材質、使用メディアの種類は異なるため、最適な研磨条件も変わってきます。パラメータ設計によって効率的に最適な研磨条件を検討することで、よりコストを抑えた製造が可能になると期待できます。
■研究者からひと言
バレル研磨に限らず製造・設計・開発などパラメータの多い様々な工程で利用が可能です。地場産業分野などでは、まだまだ効率化できる部分があると思いますので、関心のある方はご相談ください。
研磨・宝飾科宮川和博