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ページID:81840更新日:2018年9月20日
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【山梨県産業技術センタープロポーザル】
産業技術センターをより活用していただくため、担当Yが、
外部の方の目線を大切にしながら、その分野の専門知識のない方でも抵抗なく読めるように、
センターの研究や設備などをわかりやすく紹介します。
今回のTOPICは、昨今注目されている新技術のうちの一つ、金属3Dプリンタです。樹脂製の3Dプリンタはメディア露出も多く、簡易的なものは一般の方でも入手できるようになったことで皆様もご存知だと思います。その一方で、ものづくりの現場で注目され、今なお進化を続けているのが金属3Dプリンタです。これまで金属で何かを造るとき、金属の板やブロックを切断したり、削ったり、変形させたり、組み合わせたりして、目的の形状を造る必要がありました。それが、金属3Dプリンタではゼロから目的の形状を直接造ることができ、時間・コスト短縮が見込まれます。まだ課題や未知の部分もあり、これからますます活躍が見込まれる金属3Dプリンタの現状と今後を、機械技術部萩原リーダー、寺澤研究員とともに見ていこうと思います。 |
新発想を具現化する可能性を秘めた金属3Dプリンタ |
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Y.萩原リーダー、寺澤さん、今回は金属3Dプリンタを紹介していただけるんですね?
萩原リーダー(以下:萩).はい。これが当センターが保有する金属3Dプリンタ、「LUMEX Avance-25(松浦機械製作所)」です。県内企業の新製品開発、新産業創出の支援、それに伴う雇用促進の一環として導入しました。
<金属3Dプリンタ> (「金属3Dプリンタ」の仕様については、こちらの機器紹介ページをご覧ください。)
Y.かなり大きい機械ですね。机の上にある試作品はこの金属3Dプリンタで造ったものですか。ずいぶん複雑な形状ができるんですね。 萩.はい。これが金属3Dプリンタの特徴ですね。金属3Dプリンタでは、金属粉末を薄く敷き詰め、レーザーで焼結を繰り返し、徐々に積み上げながら造形するため、切削加工などでは難しい複雑なものができます。このメッシュになっている形状はそのいい例ですね。活用例とすると、強度を保ちながらこのような構造を組み込むことで、自動車や航空機部品などの軽量化、ということが考えられます。 Y.こんな形状までできるんですね。こういう形状は切削加工で作れるイメージはないですね。他にはどんなことができるんですか。 萩.例えばこの形状のように、中に空洞を作ることもできますね。これは切削加工や放電加工ではできない形状です。こちらの活用例とすると、金型内部に空洞を作り冷却管とすることで、冷却効率の向上、ということが挙げられます。 以前は、企業の方から「こんな形状をつくりたい」という要望があっても、加工法がなく断念していた事例もありました。しかし、金属3Dプリンタではそういった形状も造形することができるので、やってみたいという企業の方もいらっしゃいます。何でもできる、というわけではありませんが、新しい発想によりさらに付加価値の高いものづくりを可能にする機械だと言えます。
Y.なるほど。金属3Dプリンタは今までの技術では不可能だった形状の造形にアプローチしやすい、ということですね。
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金属3Dプリンタのデモンストレーション |
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Y.では、次に実際のこの装置について、教えてください。 寺澤研究員(以下:寺).そうですね。金属3Dプリンタにはいくつかの種類がありますが、当センターの金属3Dプリンタは、造形後に切削加工も行える機能を搭載しています。レーザーで焼結したままの造形物の表面はかなり荒い状態にあるため、表面精度が必要な場合には造形後に別の機械で加工する必要があります。しかし、この装置では切削加工まで行えますので、一台で仕上げ品まで作製することができます。 金属3Dプリンタを動かしての実際の工程の映像がありますので、見てみましょう。 Y.お願いします。
-パソコンのモニターに、金属積層物を敷き詰めて、レーザーで焼結していく積層工程が映し出される-
-次に、積層されたものを切削している様子が映し出される-
寺.この試作品を造っている様子です。 Y.思ったより細かい加工作業ですね!似たような切り絵をカッターで造ってくださいと言われても私には難しい気もします。それにしてもずいぶん何度も同じ箇所を切削するのですね。実際の造形品を造るのには、どのくらい時間がかかるのですか。 寺.一言での回答は難しいですね。というのは、何を造るかによるからです。造形のみの場合は、体積からある程度時間の換算ができます。小ぶりなものであれば、2時間ほどで作業は終わります。ただ、切削の工程が加わると時間が大きく変わってきます。形状の複雑さや必要な表面精度によりますが、先ほど紹介したメッシュ状の試作品であれば4時間、こちらの県章マークの試作品は120時間かかりました。 Y.120時間!微小で複雑な形状の加工には、やはり時間がかかるのですね。企業の方からの相談で、ここまで求められることもあるのですか。 寺.ありますね。どこまでの精度が必要かについて、企業の方とよく相談しながら、加工を進めています。 Y.ここまでのお話を聞いていると、金属3Dプリンタがあれば、何でも造れてしまいそうですね。そうすると、今後、切削加工や放電加工といった技術が不要になってくるような気がします。 萩.そんなことはありません。切削加工や放電加工といった技術のほうが得意な場面、効率の良い場面が出てきますので、それらの技術と金属3Dプリンタは補完的な関係と言えますね。
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金属3Dプリンタで変わるものづくり |
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Y.では、実際に金属3Dプリンタに関する相談にはどのようなものがあって、どのように活用されていますか。 萩.相談件数から言うと、月に数件、その中でも実際に金属3Dプリンタの利用につながる案件は半数ほどです。先ほどお話ししたように、相談された形状によっては、切削加工や放電加工をお勧めすることもあります。相談内容は多岐に渡りますが、主なものとしては金型が一番多く、医療系、その他切削加工の代替技術としての相談やその試作での活用があげられます。 Y.金属3Dプリンタの使用によって、ものづくりはどのように変わりますか。 萩.試作・試験におけるスピード化・コスト削減は大きな変化です。製品開発において一部のみを変えて類似した形状をいくつも試作する際には、有効だと思います。それに加え、多品種、少量生産の効率化が可能になります。例えば、医療分野においてインプラントは、少量生産どころかその人”個人”の体に合うものを造らなければなりません。ひとりひとり違った体に合うインプラントを作製するのに以前は時間もコストもかかりましたが、金属3Dプリンタはその時間やコストの削減に大きく寄与すると思われます。 Y.それは、今までの現場では考えられなかったことですね。やはり今後、金属3Dプリンタの用途が増えると考えていいのでしょうか。 萩.そうですね。先ほどもお話ししましたが、多品種、少量生産に対して有効ですので、そのような製品について、製造を担う機械が金属3Dプリンタに替わることは十分考えられます。このような今までにない製造技術が、今後のものづくりを変えていくのではないでしょうか。
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金属3Dプリンタ、未来への課題 |
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Y.金属3Dプリンタについて研究を行っているということですが、金属3Dプリンタはまだ改良の余地のある機械ということですか? 萩.そうです。金属3Dプリンタが実際に活用されるようになってからまだ期間も短く、これからさらに改良され、進歩していく技術だと思っています。 具体的な課題としては、金属3Dプリンタで造形した場合に、設計時の形状と造形品の形状に差異が生じてしまう場合があることです。その課題に対して当センターでは、「造形物の表面形状・表面粗さに関する品質向上」と「造形物の形状変形軽減化」の2テーマについて、研究を進めています。
Y.ひとつずつお伺いしたいと思います。「造形物の表面形状・表面粗さの品質向上」と言うことは、造形物の表面に何らかの問題があるということですか? 萩.そうです。アンダーカット(オーバーハング)面では造形プロセスの関係上、表面粗さの制御が難しく、完成品の精度を下げてしまう可能性を含んでいます。そこで、この研究では、それらの面の表面性状の向上と粗さ測定の方法の確立を目標としています。 Y.(アンダーカット面を指さして)なかなかきれいに造形されないこの面を、きれいに造形できるようにする、ということですね。それでは、「造形物の形状変形軽減化」についてですが、造形で形状が変わってしまうことがあるんですか? 萩.あります。金属3Dプリンタでは、金属粉末をレーザーで焼結させるので、熱による金属の膨張・縮小により、歪みが生じてしまいます。精密な部品を作る際に、変形は大きな問題となりますので、課題解決が急がれています。 Y.それは重要な課題ですね。これらの課題を解決できれば、金属3Dプリンタの活躍の場面がより一層増えるように思えます。県内の企業の皆様にとって、さらに使いやすい機械になっていくことでしょう。また、課題解決の最中にも、金属3Dプリンタの知られざる面を見つけることもできそうです。
萩.金属3Dプリンタの用途としては、先ほど述べたように金型などいくつかの実施事例はありますが、その他にどのように利用できるのかを模索している状態にあり、まだだれも気が付いていない用途があるといっても過言ではありません。ですので、当センターでは、様々な企業の方にまず金属3Dプリンタを使って新技術を体感していただき、金属3Dプリンタのメリット、デメリット等の特徴を知っていただくために、金属3Dプリンタを題材にした研修会(ものづくり人材育成研修・後期)も行っていく予定ですので、ご興味のある方は、ぜひご参加ください。 Y.先ほどお話しいただいた業種以外でも、金属3Dプリンタの利用は可能なのでしょうか? 萩.はい。これまでにも他の業種の方からの相談がありました。内容によっては金属3Dプリンタ以外の機械を紹介する場合もありますが、お気軽にご相談ください。 Y.まだ発見されていない利用方法が見つかると良いですね! 萩.これらの課題解決の過程、あるいは解決によって精密部品の造形への活用など、さらに用途の幅が広がってくると思うので、県内の企業の方により活用していただけると思っております。 Y.萩原リーダー、寺澤さん、今回はありがとうございました。
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まとめ | ||
従来の加工機器ではできなかった形状の造形が可能となる。多品種、少量生産の効率化となる。
金属部品を扱う全ての分野で利用の可能性あり。今後、用途が増えていくことが見込まれる。
新製品開発や製品の高付加価値化に繋がる技術である。今後の研究開発などによる造形技術の高度化や用途の拡大に伴い、業界への貢献度も高くなる。 |
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Y.近年注目されている新技術のひとつ、金属3Dプリンタについてお伝えいたしました。今までになかった造形方法は、ものづくりの現場に変化をもたらしています。まだ完成していないその技術には、可能性が多く含まれているようです。応用の範囲も幅広く、その展開に今後も目が離せないでしょう。 |
研究員紹介 萩原義人(機械技術部リーダー(主任研究員)) 抱負等「皆様に金属3Dプリンタを活用いただくことで、新たな製品開発や、技術力向上に貢献していきたいです。」 寺澤章裕(機械技術部研究員) 抱負等「高品質な造形を行えるように工夫をし、利用促進につなげていきたいです。」 |