トップ > 組織案内 > 観光文化・スポーツ部 > 山梨県埋蔵文化財センター > 埋蔵文化財センター_遺跡トピックス一覧 > 遺跡トピックスNo.543 渦巻状結節浮線文が施文された土器-花鳥山遺跡・天神遺跡出土資料-
ページID:116796更新日:2024年11月22日
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今回は縄文時代前期後半の渦巻文様について考えます。
花鳥山遺跡は甲府盆地東部にある御坂山塊の北麓、天神遺跡は八ヶ岳南麓に位置する遺跡です。いずれも縄文時代前期後半の大集落が確認されており、天神遺跡出土品は資料的な価値の高さから日本遺産構成文化財に認定されています。
遺跡名:花鳥山遺跡
所在地:笛吹市御坂町竹居~八代町竹居
時代:縄文時代
報告書:山梨県埋蔵文化財センター調査報告書第45 集、1989(平成元)年
調査機関:山梨県埋蔵文化財センター
遺跡名:天神遺跡
所在地:北杜市大泉町西井出字天神
時代:縄文時代、平安時代
報告書:山梨県埋蔵文化財センター調査報告書第97 集、1994(平成6)年
調査機関:山梨県埋蔵文化財センター
花鳥山遺跡のトピックス No.0135、No.0194、No.0199、No.0406、No.0466
天神遺跡のトピックス No.0031、No.0050、No.0236、No.0336
今回取り上げる花鳥山遺跡及び天神遺跡から出土した資料には目玉の様な渦巻き文様がつけられています。この渦巻き文様を双円形渦巻状結節浮線文と呼びます。
この文様は、細い粘土紐の上に半裁竹管(半分に分割した竹)の内側を被せ、押し引いた結節浮線文で渦巻き模様を表現したものです。古い段階では渦巻き1つの単円形渦巻状結節浮線文しかなく、新しい段階で円形が横並び2つの双円形渦巻状結節浮線文に変化すると考えられます。
双円形渦巻状結節浮線文は土器の表面を渦巻状結節浮線文で埋め尽くしているように錯覚してしまいますが、実際は図「文様の構成要素」で示した通り、中央の渦文2単位とC字文・逆C字文を組み合わせることにより、より大きな渦巻きを表現していることが分かります。
これは花鳥山遺跡出土資料2点と天神遺跡出土資料1点に典型的に表現されています。
下図の通り、渦文を構成する結節浮線文の連続する範囲を見ると、いずれも中央の部分に限定されます。これは円形が隣り合っているため、一定の範囲以上に広がると、円形が重なり合ってしまうためと考えられます。
また、双円形渦巻状結節浮線文は目玉のような造形を作りたかったため、この文様を選んだとも考えられますが、それは対称形の図形になれた我々、現代日本人の感覚に過ぎないのかもしれません。渦文の渦を巻く方向を見ると、逆向きの渦が並ぶ対称形ではなく、同一の巻き方の渦文が横に並べられていることが分かります。渦文自体が何を意味しているのかは分かりませんが、2つ横並びにすることで、何らかの象徴的な力が倍になることを願って双円形を採用した可能性もあります。
天神遺跡出土資料からは双円形渦巻状結節浮線文のほかに、沈線文が施された土器が確認されました。沈線文は結節浮線文により分断されていることから、結節浮線文が施文される前につけられたものと考えられ、波状口縁の波頂部や波頂部間にあります。
写真左は渦文の境界、写真右は双円形渦巻状結節浮線文の境界に沈線文が施されていることから、双円形渦巻状結節浮線文をつける前に文様の境界に沈線文を引いたと考えられます。双円形渦巻状結節浮線文は2単位の渦文とC字文・逆C字文によって大きな渦巻きを表現する文様であるため、文様の境界をあらかじめ意識しないと文様構成が破綻してしまいます。
ガイドラインとしての沈線文は文様構成を保持するために必要とされたのではないでしょうか。
山梨の縄文文化は大型の土器が作られる中期文化が注目されますが、縄文時代前期後半にも大きな集落が営まれ、制作するのに大きな労力が必要な双円形渦巻状結節浮線文をつけた土器が出現しました。縄文時代前期後半は中期に先立ち縄文文化が繁栄した時期であったと考えられます。
文化庁による令和6年度における「日本遺産」総括評価・継続審査の結果、平成30 年度から令和5年度まで6年間の取組が認められ、「星降る中部高地の縄文世界」は認定継続となりました。今後は新たな地域活性化計画に基づき、令和6年度から令和8年度まで事業を進めていくことになります。
遺跡トピックスでは、今後も日本遺産構成文化財をご紹介します。構成文化財の展示施設にもぜひ足をお運びください。